2021 Fiscal Year Research-status Report
甲虫類における前翅形態の多様性:捕食者防御と飛翔効率のトレードオフの解明
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20K15863
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
小島 渉 山口大学, 大学院創成科学研究科, 講師 (70750462)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 甲虫 / 防御 / 捕食者 / 飛行 / 鞘翅 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、コガネムシ科の物理的防御機能について検証することである。2021年度は、2020年度に引き続き、ウズラを捕食者のモデルとして、飼育下で甲虫の捕食実験を行った。ウズラは、体が硬くとも体が小さい昆虫は、丸のみにすることで捕食できることが分かった。しかし、硬い種を与えられた場合は、処理するのに時間がかかり、体が大きな獲物は死亡を免れることが多かった。わらを敷き詰め、自然環境を模した状況下で同様の実験を行ったところ、甲虫の生存率はさらに上昇した。これはウズラが獲物を処理する間に獲物を見失ったためである。このように、室内での捕食実験は無事に終えることができたが、野外での捕食実験は実施できなかったため、2022年度の課題としたい。 ウズラから逃れやすい種が実際に硬い体を持つかを調べるために、体表のクチクラを破壊するのに要する力を力センサーを用いて調べた。腹部側と背面側では、クチクラを破壊するのにかかる力はどの種でも同程度であった。また、予測された通り、ウズラから捕食されにくかった数種のハナムグリ亜科の昆虫は、他種と比べて硬い体を持つことがわかった。体の大きさと硬さの間にはあまり強い関係が見られず、系統に大きく影響される可能性が示唆された。ただし、同じ分類群(たとえばハナムグリ亜科)のなかでも、体の硬さには種間差が見られた。今後は、硬い体を持つことのコストと、硬い体が進化する生態的条件について検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
飼育下における捕食実験を終わらせることができた。また、甲虫の硬さを測るシステムを確立し、多くのデータを得た。コロナ禍のため、野外での捕食実験は進めることができなかったものの、それ以外の実験は予定通り進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度に十分行うことができなかった野外での昆虫の捕食実験を行う予定である。都市公園で餌付けされたヒヨドリやムクドリなどに、硬さの異なる複数種のコガネムシ科昆虫(シロテンハナムグリ、アオドウガネ、コフキコガネなど)を与え、硬い種ほど食べられにくいかを調べる。撮影した動画の解析から、獲物の処理時間についても比較する。 2021年度は、昆虫の硬さの測定のためのシステムを千葉大学にて立ち上げ、約5種類のコガネムシ科の硬さを測ることができた。このシステムを用い、コガネムシ科だけでなく、多くの甲虫の硬さの計測を行う予定である。2021年度の実験から、近縁種間でも体の硬さに大きな違いがあることが分かった。この違いにどのような生態学的要因が関わるのかを明らかにするため、硬さやそれぞれの種の生態学的条件を系統樹にマッピングし、系統関係を考慮した種間比較を行う。また、体を硬化させることに伴うコストについても、生理学的な側面や、飛行における流体学的な側面などから解析を行う。体を硬化させることによる、捕食回避以外の利点(低温、乾燥耐性)などについても検討したい。体の硬さの種間比較と、野外及び室内における捕食実験の結果を論文としてまとめ、国際誌に投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、兵庫県における野外調査を一度も行うことができなかった。また、研究協力者である千葉大学の中田敏是准教授との研究打ち合わせおよび実験も、十分に行うことができなかった。そのため、実験のための物品や旅費などの費用に当初の使用予定額との差が生じた。2022年度に出張に行ける状況であれば、野外調査や千葉大学での実験において使用する予定である。
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