2020 Fiscal Year Research-status Report
交雑が誘う適応放散:琵琶湖固有腹足類をモデルとした「超越分離」仮説の検証
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20K15866
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
齊藤 匠 東邦大学, 理学部, 訪問研究員 (90858903)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 交雑 / 種分化 / 古代湖 / 淡水産貝類 / モノアラガイ科 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はcovid-19の感染拡大防止の対策のために調査が制限されたため、既存の標本の測定や遺伝解析を中心に行った。形態解析では申請時までに行っていた予察的な解析に加えて、今まで採集していたオウミガイと琵琶湖、および周辺地域のモノアラガイ類の標本の大半を写真撮影し、殻サイズを測定するとともに楕円フーエリ法によって輪郭を定量化し、解析した。加えて、博物館標本についても一部を撮影し、検討した。結果として、オウミガイと湖内のモノアラガイ類は明瞭に殻の輪郭が異なること、また湖外のモノアラガイ類と湖内のモノアラガイ類も一部オーバーラップがあるものの、主に殻サイズが異なることが明らかになった。さらに、殻形態の分散は湖内の未記載種が最も大きいことも示された。また、一部の個体については試験的に解剖を行い、生殖器官の形質は発育の段階や個体によって不安定であるが、雄生殖器官については比較的容易に定量化可能であることを確認した。加えて、遺伝解析についても従来得られていた標本から追加でDNAの抽出などを行い、次年度以降の遺伝解析の準備を行った。これらは次年度以降に追加のサンプルと合わせて遺伝解析に供する予定である。また既に得ていたモノアラガイ類の遺伝解析について、高性能な計算機を用いて方法の検討を行った。野外調査については基本的に最小限度しか行えなかったが、最も重要である琵琶湖周辺のモノアラガイ類の追加のサンプルも入手することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野外調査や遺伝子解析の外注などについてはcovid-19の感染拡大防止対策の影響で、十全に行うことは困難であった。一方で、計算機を用いた解析方法の検討や既に採集済みであった標本を遺伝子解析に供する準備など、次年度以降、ワクチンの接種などによりcovid-19の感染状況が変化した際には速やかに研究を遂行できるように準備を整えた。また形態解析では従来までに採集済であった標本群や博物館標本を用いて、解析、検討することで、仮説に近いと思われる結果を得た。つまり、交雑個体群では殻形態の多様性が高い可能性があることが示唆された。また、生殖器官の形態については、採集済個体の全てを検討することはできなかったが、一部を解剖、検討した結果、雄生殖器官に焦点を当てて比較検討することが可能であるという知見を得た。また、本件に関連して得られた博物館標本の知見は論文として公表されるに至った。野外調査に関しては、上述のように最小限に留めることになったが、琵琶湖内のモノアラガイ類の形成史を明らかにする上で最重要である、琵琶湖周辺のモノアラガイを複数地点で採集することができた。次年度以降、これを用いて、追加の遺伝子解析を行うことができると予想される。以上をまとめると、予想外の社会状況であったものの、研究計画の順番を変え、ある程度柔軟に対処できたと考えられる。次年度以降の状況にも依るが、概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方法については、本年度までに得られた標本群を全て遺伝解析に供するとともに、生殖器形態の定量化と解析なども随時行う予定である。また、本年度遂行できなかった野外調査に関して進めることが今後の最優先事項となると考えられる。しかしながら、covid-19の感染拡大対策の状況によっては次年度も調査が難しい可能性もあり、最終年度に持ち越さざるをえない場合も考慮する。その際は、先に野外調査以外の研究計画の大部分を行い、最終年度に野外調査を実施する、あるいは野外調査で得る予定であった項目を最小限に絞り、残りについてはランドサットやGISなどの既存のデータベースから得られるデータで補うことを視野に入れる。
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Causes of Carryover |
本年度はcovid-19の感染拡大防止対策のために予定していた野外調査の大部分と、野外調査に基づくサンプルを使用した遺伝解析の双方の実施が難しかった。したがって、次年度にこれらの費用を繰り越すことになった。次年度使用額と2021年度の助成金は本年度困難であった野外調査の旅費、遺伝解析の外注費、論文執筆時の英文校閲、および掲載料、解析用機材の購入費として使用する予定である。
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Research Products
(6 results)