2021 Fiscal Year Research-status Report
黒姫山における最終氷期末期以降のオオシラビソ林形成過程に湿地が果たした役割
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20K15868
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Research Institution | Natural History Museum and Institute, Chiba |
Principal Investigator |
西内 李佳 千葉県立中央博物館, その他部局等, 研究員(移行) (70828805)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 花粉分析 / 大型植物化石 / オオシラビソ / 亜高山帯 / 完新世 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、多雪地域の亜高山帯に分布するオオシラビソ林の成り立ちに、最終氷期以降の気候変動と地形が与えた影響を明らかにし、日本固有種であり現在の日本海側の亜高山帯林の主要構成種となっているオオシラビソの分布立地について重要な知見を与えることで、日本の森林の種多様性形成過程の解明の一助になることである。 長野県北部の黒姫山で、標高の異なる3つの湿地で採取した約1万年前~現在の地層から植物化石(花粉・種実・葉)を抽出し、3地点のオオシラビソを含む植生の変遷を明らかにする。3地点間の比較から、気候変動に伴うオオシラビソの分布変遷と標高・地形との関係を明らかにする。山麓盆地の最終氷期の堆積物に含まれる植物化石からオオシラビソの最終氷期の分布立地についても考察し、黒姫山周辺でのオオシラビソの分布変遷を解明する。 2021年度は、比較的採取が容易な南麓の種池(標高1,170 m)のほとりにおいて、地質コンサルタント会社に委託し人力ボーリングによる試料採取を行った。泥炭層からなる3本のボーリングコアを採取し、写真撮影、堆積物の観察、柱状図の作成等を行った。最も長いボーリングコアの最深部の堆積物の炭素14年代測定を行った結果、種池のほとりに堆積している泥炭層はおよそ6000年前以降の堆積物であることが明らかになった。過去1万年間のうち、最も温暖であった縄文海進期の堆積物を含む試料であることから、温暖期のオオシラビソの逃避地(レフュージア)を明らかにする上で貴重な試料と言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、2020年度に県をまたぐ移動が困難となった。特に、勤務地である千葉県は緊急事態宣言が発令されている期間が長く、他の県への移動自粛が長期間に渡って続いた。高山での人力ボーリングの実施は、天気、気温、日照時間等様々な条件を勘案する必要があり、委託業者との綿密な調整が必要である。また、黒姫山は国立公園に指定されており、試料採取等の許可申請等様々な事前準備が数ヶ月前から必要である。2020年度の状況下では事前に計画を立てることが困難であり、ボーリングの実施を見送ったため、計画はおよそ1年分遅れている。 所属機関である博物館では、当番業務や消毒作業など新型コロナウイルス感染拡大防止に関連した業務が増加した。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染予防策を講じつつ、引き続き黒姫山でのボーリング試料採取を行う。2022年度は、2021年度に予定していた中腹の大ダルミ湿原でのボーリングを行う。本研究で最も重要と考えられるのはこの大ダルミ湿原である。 ボーリングによって採取した約1万年前~現在の堆積物と、採取済みの山麓盆地の最終氷期の堆積物から植物化石(花粉・種実・葉)を抽出し、オオシラビソを含む植生の変遷を明らかにする。
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Causes of Carryover |
毎年1箇所ずつボーリングを行う計画であったが、新型コロナウイルス感染症のため1年ずつずれている。2021年度は、当初の計画であれば最も重要視している中腹の湿原でのボーリングを行う予定で、人力ボーリングの委託料も高額になるはずであったが、比較的作業が容易な南麓でのボーリングとなった。また、2020年度にボーリングコアの採取を行っていれば、2021年度に年代測定の委託料も発生するはずであったが、まだほとんど実施できていない。2022年度は中腹でのボーリングや年代測定等、高額の委託を予定している。
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