2021 Fiscal Year Research-status Report
Is snail mucus useful for understanding the complex intertidal community structure and dynamics?
Project/Area Number |
20K15874
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
和田 葉子 北海道大学, 地球環境科学研究院, 特別研究員(RPD) (00865420)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 粘液 / 貝類 / 群集生態学 / 岩礁潮間帯 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、貝類が普遍的に生成する“粘液”を介した生物間相互作用ネットワーク、“ねばねばネットワーク”の全貌を解明し、それらが岩礁潮間帯群集の構造や動態を理解する上で極めて重要なファクターであることを量的・質的に示すことである。そのために、野外で貝類が塗布する粘液量を推定するとともに、貝類が種内,種間で粘液情報をどのように利用しているのかを明らかにするための実験を行う。また,粘液が海藻などの一次生産者にもたらす影響を明らかにする。その中で,粘液の成分分析を進め,種や個体認識を可能にしている成分は何か,海藻成長を促している成分やその量は種内・種間で異なるのか評価する。 本年度は,すでに取り組んでいた,(1)藻食性笠貝キクノハナガイの粘液成分分析(2)野外における粘液量の算出に加え,(3)種内コミュニケーションへの粘液の役割を明らかにするための実験を行った。(1)粘液の成分分析に関しては,糖鎖やたんぱく質がどれほど含まれていそうか分析を進め,今後の方針を決定した。(2)野外粘液量算出に関しては,すでに得ていた野外画像データの解析を進め,貝類の移動軌跡を解析し,粘液分泌量を算出した。この結果は,2度のセミナーと日本生態学会でポスター発表した。(3)種内コミュニケーションへの粘液の役割を調べるために,新たにタマキビを対象とし,タマキビが高密度で生息する北海道に調査地を移し研究を進めた。その中で,集合性を持つタマキビが,粘液を用いて集合していること,その粘液が海藻成長を促していることを室内・野外実験により示唆することができた。本研究結果は,貝類粘液が情報源として種内で利用され,それが集合形成を促進すること,さらに,栄養源として周りの生物に影響が波及することを示しており,岩礁潮間帯に生息する生物の空間分布を考える上での粘液の重要性が示されつつあると考える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)粘液の成分分析に関しては,キクノハナガイの粘液にどれほど糖鎖が含まれているか調べる段階に進み,解析の方針を共同研究者の丑田教授(北里大学)と議論している。 (2)野外における粘液量の算出に関しては,データ解析がほぼ終わり,共同研究者の岩谷准教授(弘前大学)と議論を重ね,データの補正作業を行う段階にまで進めることができた。 (3)当初,貝類の捕食-被食関係を含む複数種間のコミュニケーションへの粘液の役割を,野外実証研究や理論研究で進める予定でいたが,ライフイベントにより長期的に野外に出ることが困難となったため,種内コミュニケーションへの粘液利用を調べる方向に方針を転換した。集合性のあるタマキビが,集合のために粘液をどう用いているのか調べるため,野外観察に加え,タマキビを室内飼育し,その集合性を撮影した。その結果,他個体の粘液跡を追跡する行動に加え,粘液跡がなくとも,前に集合していた場所に良く集まる傾向が見られた。また,海藻成長を促している可能性も示唆された。当初の計画とは異なる方向で進めざるを得なかったが,最低限の結果が得られたことで,共同研究を行っている佐藤准教授(京都大学)や野田教授(北海道大学)と研究の方針を再検討し計画するに至った。 以上の理由で,困難はあったものの,研究は順調に進んだと判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)粘液の成分分析に関しては,引き続き粘液に含まれる糖鎖やたんぱく質を調べることに加え,粘液のC・N・P比や有機物含有量,海藻への影響を調べる。また,キクノハナガイ以外の貝でも分析を進める。 (2)野外での粘液塗布量算出のため,野外移動軌跡データの補正作業を終えるとともに,移動距離と粘液分泌量の関係式を,多くの貝を対象に行う。そのため,様々な海岸にて貝類の採集を行う。 (3)新たに北海道忍路海岸において野外実証実験を行い,粘液の集合形成への役割,集合の空間分布とその周りの生物群集の分布への粘液の役割を詳細に明らかにする。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍における野外調査の制限や,ライフイベントによる研究中断により,当初の計画通りの研究を行うことができなかった。 野外調査や粘液成分解析に使用する。
|