2021 Fiscal Year Research-status Report
マウス言語知覚野の探求:超音波発声に応答する皮質領野
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20K15896
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
山岸 達矢 新潟大学, 医歯学系, 助教 (50804580)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 超音波発声 / 求愛歌 / 聴覚野 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はマウスのUltrasonic vocalizations(USVs:超音波発声)に対してマウス聴覚野がどのように応答するかをフラビン蛋白蛍光イメージングを用いて明らかにすることである。本来言語を持たないはずのマウスにおいて、ヒト言語知覚野に近い領野の発見・解明につながりうる大脳聴覚生理学的に大きな意義のある研究である。 2021年度はマウスの両側聴覚野を同時にフラビン蛋白蛍光イメージングできる設備を整え、得られたイメージング画像の解析するためのソフトウェアを導入した。C57BL6/J雄マウスが雌に求愛するCurtship USVsに対する聴覚野の神経応答を両側同時に捉えることが可能となった。性成熟期の雄6匹、雌7匹の計13匹分のイメージングデータを得て、Curtship USVsに対する聴覚野の各領域(AAF,A1,A2,DA,DM)の反応を解析した。各領域で皮質応答の振幅補正比を比較したところ、性別による有意差は認められなかったが、左右半球で比較すると雌の右半球ではDA,DM,A1の3領域で神経応答が抑制されていることが分かった。 また各領域で反応の潜時(50%Max Latency)を雄と雌で比較したところ、AAF,A1では刺激開始からの潜時に差を認めなかったが、DA,DM,A2の3領域では雌の個体で有意に潜時が延長していることが分かった。潜時においては雌雄問わず左右の半球間の差は認めなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
USVsには雄が雌に求愛する際に発するCurtship USVsと母から分離された仔マウスが発するpup USVsの2種類が主に知られている。当初の年次計画では、初年度(2020年度)にCourtship USVsに応ずる皮質領野のデータ収集、次年度(2021年度)はpup USVsに応ずる母マウスの聴覚応答に関するデータ収集を行う予定であった。 しかし、当初の研究計画にはなかった左右大脳半球間の差を解析するための両側同時に撮像するフラビン蛋白蛍光イメージング装置の確立と記録・解析に用いるソフトウェアの開発に半年ほど時間を要した分、2021年度の研究進捗にやや遅れが生じている。またCourtship USVsの録音作業と典型的なシラブルパターンを含むUSVsの抽出は比較的容易であったが、仔マウスが発する音圧の小さなpup USVsの録音と典型的なシラブルパターンの抽出作業に難渋していることも遅れが生じている一因である。 結果的に、今年度Curtship USVsを刺激とした両側半球同時イメージングを行い、得られたデータを解析したことで重要な結果が得られたが、進捗状況としては「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き両側同時イメージングの強みを生かした実験を行う方針である。 今年度までに得られた雌マウスの左右の大脳半球に差が生じるという知見に対する一つの仮説としては性交渉を経験していると右半球聴覚野の神経活動が抑制されることが考えられる。マウスが発するUSVsは種によって遺伝的に規定されているという説が実験データから支持されているが、USVsを聴く・受け取る側には何らかの経験依存が関与しているのではないかと推測する。今後は雌の経産マウスと未経産マウスでCortship USVsに対する反応の差異を解析していく予定である。 pup USVsを刺激とした皮質応答に関しては、当初の研究計画どおりに出産や育児経験の有無による何らかの皮質可塑性、半球優位性を示せるように実験を進めていく。
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Causes of Carryover |
初年度に置いて必要な備品はほぼ購入で来ており、本年度は必要な試薬、手術器具、消耗品のみの支出となった。C57BL/6J野生型マウスは購入ではなく繁殖させて使用したため購入費用が不要となった。また新型コロナウイルス感染症の影響で学会への参加・発表がオンラインとなり旅費が不要となった。以上の理由から次年度へ使用額が生じた。 次年度使用額は妊娠マウスの購入や解析ソフトウェアのアップデート版のライセンス購入、国内・海外での学会に現地参加するための旅費として使用する計画である。
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