2020 Fiscal Year Research-status Report
小腸粘膜内神経ネットワークの構造とその形成過程の解明
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20K15902
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
万谷 洋平 神戸大学, 農学研究科, 助教 (30724984)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 腸管神経系 / 電子顕微鏡 / 組織学 / 腸内細菌 / 腸管 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は,ラットの腸管粘膜内神経ネットワーク構造について,以下の成果を得た。 ・serial block-face走査型電子顕微鏡(SBF-SEM)を用いて,ラット小腸粘膜において,神経線維が線維芽細胞様細胞(FBLC)やマクロファージ様細胞に接続しており,その接続部には複数パターンの接続構造が形成されることを明らかにした(Nakanishi et al., 2020, J. Vet. Med. Sci.)。 さらに,今後粘膜内神経ネットワークと粘膜内細胞ないし腸内細菌との関連を明らかにする研究につなげるために,以下の基盤的研究を実施した(②~④は第163回日本獣医学会学術集会で公表)。 ①小腸粘膜内マクロファージの多様性を免疫組織化学,SBF-SEMにより解析し,腸絨毛から腸陰窩にいたる領域ごとに特徴的なマクロファージが存在していることを明らかにした(Mantani et al., 2021, Cell Tissue Res.)。②小腸において神経線維の接続が多くみられたFBLCについてより広範な知見を得るため,大腸におけるFBLCのレパートリーについて免疫組織化学的解析およびSBF-SEM解析を実施し,盲腸と下行結腸では異なる性質のFBLCが存在していることを明らかにした。③腸管各部位の集合リンパ小節に存在する間葉系細胞である細網細胞の組織学特徴を調べ,下行結腸の細網細胞は回腸や盲腸とは異なる性質を示す可能性を示した。④消化管内における腸内細菌の定着程度の概日リズムを調べた結果,とくに胃の無腺部と回腸粘膜に定着する細菌量は1日の中で変動する可能性を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画当初は今年度実施予定であった国際共同研究については,コロナ禍の影響で着手できなかったため,次年度以降に持ち越しとなってしまったため,計画内容について,国内で実施可能な内容を優先的に実施することに変更した。 コロナ禍の影響で初動が遅れてしまったものの,複数の基盤的成果を得ることができるとともに,腸管粘膜内神経ネットワーク構造について,次年度に公表可能な成果を得ることもできた。さらに,現時点では実績になっていない腸管神経系に関する予備的解析にも着手しており,次年度にそれらの研究に本格的に着手することにより,最終年度以降に多数の成果公表を行うことができる見通しがたったことから,研究全体の進捗としてはおおむね順調であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は,上記の成果を順次論文公表するとともに,腸管粘膜内神経ネットワーク構造について,以下の観点について解析を進める予定である。 1)腸管神経系ネットワークの領域特異性の解明:粘膜内神経ネットワークについて,腸管の部位ごとの違いを免疫組織化学,SBF-SEM解析などにより明らかにする。その際,腸内細菌の定着状況などとの関連を考察するとともに,必要に応じて腸内細菌がそれらの構造に及ぼす影響を明らかにする。 2)腸管神経ネットワーク構造の形成過程の解明:胎子期の発生過程,出生後の発達過程において,これまで成獣で明らかにしてきた腸管粘膜内神経ネットワーク構造がどのように構築されるのかを,組織学的手法を中心に用いて明らかにする。また,その際に神経ネットワーク形成のメカニズムについても,分子生物学的手法などを併用して明らかにする。 3)腸管粘膜内グリア細胞に関する組織学的解析:腸管各部位の粘膜内グリア細胞について,その局在部位や被鞘構造の詳細など,基盤的な知見を組織学的解析により取得する。 以上のとおり取り組んだ成果は,各種学術集会で発表するとともに,学術雑誌に論文投稿することで公表していく予定である。
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Causes of Carryover |
今年度は,コロナ禍で初動が遅れたことにより,計画を一部変更する必要性が生じため,当初初年度に取り組む予定であった実験系を次年度以降に持ち越し,初年度はコロナ禍でも実施可能な研究内容を優先的に取り組んだ。その結果,その差分で次年度使用額が発生した。 また,今年度は計画当初計上していた学術集会参加への出張費用について,学術集会がすべてオンラインないし誌面開催となったことから,出張費用はすべて次年度以降に持ち越し,物品費等の研究活動費に使用することとした。加えて,計画当初予定していた初年度の海外出張についても,コロナ禍の影響で取りやめとなったことから,その出張費用についても次年度以降に持ち越し,海外出張の可否は相談中であるが,場合によっては物品費等の研究活動費として使用することとした。
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