2021 Fiscal Year Research-status Report
小腸粘膜内神経ネットワークの構造とその形成過程の解明
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20K15902
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
万谷 洋平 神戸大学, 農学研究科, 助教 (30724984)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 腸管神経系 / 電子顕微鏡 / 組織学 / 腸管 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,腸管粘膜内神経ネットワーク構造について,以下の成果を得た。 1)serial block-face走査型電子顕微鏡(SBF-SEM)と免疫組織化学的解析により,腸管各部位の粘膜内グリア細胞の局在やそれらによる神経線維束の被鞘構造について超微形態学レベルの特徴を明らかにした(第164回日本獣医学会で公表済み)。 2)大腸粘膜における神経ネットワークの組織学的特徴を,SBF-SEMと免疫組織化学的手法により解析し,とくに下行結腸の腸表面上皮側で複雑な神経ネットワークが発達することを示した。これらの神経線維は盲腸,下行結腸ともに,腸表面上皮側の線維芽細胞様細胞(FBLC)とマクロファージ様細胞に多く接触していることも明らかにした(第164回日本獣医学会,第127回日本解剖学会総会で公表済み)。 3)小腸粘膜における神経ネットワークの生後変化を免疫組織化学的に解析し,生後2週齢までに粘膜内神経ネットワークの構築が進み,その後種々の神経伝達物質の発現が起こることを明らかにした(第127回日本解剖学会総会で公表済み)。胎子期における解析にも着手した。 さらに,今後粘膜内神経ネットワークと粘膜内細胞ないし腸内細菌との関連を明らかにする研究につなげるために,消化管内における腸内細菌の定着程度および宿主による生体防御機構について,概日リズムの観点から解析を実施した。その結果,とくに食道,胃の無腺部と回腸粘膜に定着する細菌量は1日の中で変動する可能性を明らかにした(Sakata et al., 2022, Cell Tissue Res., accepted)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,昨年度明らかにした小腸粘膜の神経ネットワークの特徴に加え,大腸粘膜内神経ネットワークの特徴を明らかにするとともに,それらの発生過程の解析にも着手し,少なくとも生後の発達過程について一定の成果をあげることができた。これらの成果については,今年度学会公表済みで,次年度に学術誌に投稿予定であり,今後の見通しは良好である。 また,未公表データについても,順次成果をあげることができている。すでに胎子期におけるSBF-SEMデータの取得を進めており,機器のトラブルがあったため当初予定よりやや遅れてはいるものの,来年度には解析に必要な量のデータ取得を完了する。現時点で,すでに特定の粘膜内細胞と神経線維の興味深い関連性を見出しており,来年度はそれらの関連性をトランスクリプトーム解析や免疫組織化学を含めた多角的な手法で明らかにする予定である。さらに,本研究ですでに取得済みの大腸各部位のSBF-SEMのデータを利用し,大腸粘膜内におけるマクロファージの部位差についての副次的な知見も得ることができており,これについても来年度公表する見込みである。 以上の通り,今年度は順調に成果の公表を進めることができるとともに,来年度に公表する目処の立っている成果をあげることができていることから,順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,上記の成果を順次論文公表するとともに,腸管粘膜内神経ネットワーク構造について,以下の観点について解析を進める予定である。 1)胎子期における小腸粘膜内神経ネットワークの発生過程とそのメカニズム:胎子期における小腸内の神経ネットワークについて,SBF-SEMによる解析を進めている。来年度には十分量のデータを取得することができるので,順次三次元構築と公表を進める。また,これらのデータから粘膜内神経ネットワーク形成に重要な時期が同定でき次第,トランスクリプトーム解析と免疫組織化学的解析を実施し,その分子基盤の探索に着手する予定である。 2)腸管神経ネットワークの生後変化:これまでに,出生後に小腸粘膜内神経ネットワークがダイナミックに変動することを見出している。この所見についてより詳細に解析するため,SBF-SEM解析を含む組織学的解析を実施する。とくに,FBLCやマクロファージなど,粘膜内細胞と粘膜内神経ネットワークとの関連性について重点的に明らかにする。 以上のとおり取り組んだ成果は,各種学術集会で発表するとともに,学術雑誌に論文投稿することで公表していく予定である。
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Causes of Carryover |
今年度は,解析対象とする胎子期の発生ステージを増やしたことに加え,SBF-SEMの機器トラブルが多く,胎子期のデータ取得が当初予定より少し遅れてしまった。これにより,このデータに基づいて実施するトランスクリプトーム解析や組織学的解析の費用を来年度に持ち越すことになったため,次年度使用額が生じた。
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Research Products
(5 results)