2020 Fiscal Year Research-status Report
TDP-43の機能異常に着目した運動ニューロン保護機構の解明とALS治療戦略
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20K15904
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
長谷川 実奈美 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (00778764)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ALS / TDP-43 / スプライスバリアント |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はALSの新規治療戦略の考案を目指し、その病因タンパク質TDP-43の機能、特にスプライシング自己制御機構に着眼した。TDP-43は自身のスプライシングを制御することで機能的バリアントの比率を一定に保つことが知られている。また、面白いことに、マウスではTDP-43スプライスバリアントの半分以上が機能的バリアントであるものの、ヒトにおいてはわずか10%にも満たないことが示されている。つまり、ヒトでは9割以上が機能的バリアント以外のスプライスバリアントであるにも関わらず、これらのスプライスバリアントについては未だ不明な点が多い。これまでの本研究成果より、これらスプライスバリアントの一つ(TDPsv)が翻訳されALS患者脊髄切片の運動ニューロンで有意に局在パターン変化を引き起こしていることがわかった。そこで、本計画ではTDPsvについて翻訳産物の機能および細胞内動態の解析、運動ニューロン恒常性維持への影響について検証した。 2020年度は、iPS細胞由来ニューロンにおいてTDPsvが神経毒性を示すことを見出した。さらに、TDPsvは一度翻訳されると細胞内にユビキチン化された不溶性の凝集を形成し主要なタンパク質分解経路であるプロテアソーム系やオートファジー系による分解を免れていることが強く示唆された。また、TDPsvは他のスプライスバリアントと比較して核内小体の一つPMLボディと高確率に共局在するが、PMLをノックダウンするとTDPsv発現量が増加することから、PMLボディは核内TDPsvの発現量を抑制することで細胞に対して保護的に働くことが示唆された。 本研究結果より、TDP-43の機能低下による自己スプライシングの乱れが引き起こされると神経毒性を示す異常翻訳産物の産生および蓄積に繋がることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は当初の計画通りiPS細胞由来ニューロンにおいてTDPsvが神経毒性を示すことを見出した。また、TDPsvの翻訳産物が主要なタンパク質分解経路での分解を免れていることを示唆する重要な知見を得ることができた。これらのことから、ニューロンのような分裂終了細胞においてTDPsvが翻訳された場合、長期にわたって蓄積していく可能性があり、ALS患者脊髄切片において見られたTDPsvの局在パターンに至る過程の解明に繋げることができた。さらに、核内においてPMLボディはTDPsvに対して抑制的に働くことでその神経毒性から保護することが推察されたことから、①PMLボディの機能不全はALSのリスクファクターとなるのか、②PMLボディの機能補完により早期にTDPsvの蓄積を防ぐことができれば神経毒性を抑制できるのか、等の新たな課題を見出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度にTDPsv翻訳産物の蓄積や分解について新な知見が得られた為、2021年度はTDPsvタンパク質の蓄積および細胞毒性を抑制するアプローチについて検証を行う。ALS患者脊髄切片を用いて、運動ニューロンのPMLボディの数および大きさについて非ALS群と比較する。また、PMLの過剰発現によりTDPsv発現量が変化するか培養細胞を用いて検証する。本実験でTDPsv発現量が減少した場合、TDPsvが発現したiPS細胞由来ニューロンにPMLを発現させることで神経毒性が抑制されるか検証する。 上記に加えて、2021年度はTDPsvの産生過程にも焦点を当て、TDP-43のスプライシング過程におけるTDPsv産生の責任配列の同定を行う。責任配列候補を含むミニジーンを複数作成し、RT-PCR法によりスプライシング解析を行う。
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Causes of Carryover |
2021年度はiPS細胞より分化誘導したニューロンを用いた実験や高価な抗体等を使用する実験を多く予定しており、その経費が必要である。また、論文投稿を予定している為、一部の直接経費を次年度の経費とした。
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