2020 Fiscal Year Research-status Report
Caチャネル-シナプス小胞カップリングに着目したシナプス前性長期増強機構の解明
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20K15905
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
深谷 亮太 同志社大学, 研究開発推進機構, 特別研究員 (80868951)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | シナプス可塑性 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経細胞どうしはシナプスで接続し、情報の受け渡しをおこなう。このとき、情報の出力部であるシナプス前終末では、カルシウム流入を引き金として、神経伝達物質が放出される。神経伝達物質の放出は可塑性をもち、海馬の苔状線維-CA3錐体細胞シナプスでは、シナプス前終末内の環状アデノシン一リン酸(cAMP)の濃度が上昇すると、放出が増強される。この増強は、カルシウムと放出のカップリングが強まることで引き起こされると考えられているが、どのようなしくみがカップリングを強めているかはわかっていなかった。2020年度の前半期までに、電気生理学的な実験とカルシウムイメージングの結果から、薬理学的にシナプス前終末内のcAMP濃度を高めると、数分のうちに放出部位近くでのカルシウム流入が強まり、神経伝達物質の放出が増強されうることを見出した。この過程で、流入を強めるメカニズムとして、放出部位付近でカルシウム流入を担う分子(カルシウムチャネル)の位置が変わることを考えた。そこで、超解像顕微鏡技術を用いて、抗体により蛍光標識したカルシウムチャネルを可視化し、cAMP濃度の上昇がカルシウムチャネルの分布に与える影響を調べた。取得した画像を解析すると、cAMP濃度の上昇により、放出部位の近くでカルシウムチャネルの分布域が広くなることを明らかにした。このことは、cAMP濃度が高くなると、カルシウムチャネルが放出部位の近くへと集積し、神経伝達物質の放出を強めることを示唆した。 このシナプスでは、高い頻度の神経活動によってcAMP濃度が上昇すると、長期にわたってシナプス伝達が増強される。この過程は、記憶や学習の素過程と考えられているが、本研究で明らかにした現象はそれらの分子レベルでの基盤となっている可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、苔状線維シナプス前終末において電気生理学的な実験やカルシウムイメージングをおこない、薬理学的なcAMPの上昇によって、カルシウムチャネルが神経伝達物質放出部位の局所に集積し、放出が増強されうることを見出した。さらに、超解像顕微鏡技術(STED)を用いて、抗体により蛍光標識したカルシウムチャネルを可視化し、cAMP濃度の上昇により、放出部位の近くのカルシウムチャネルの分布域が広くなることを明らかにした。これらの実験は2020-2021年度に計画したものであり、おおむね当初の計画通りに研究を遂行し、研究成果を学術論文として報告することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、薬理学的なcAMP/PKA系の活性化によって、どのようにカルシウムと神経伝達物質放出のカップリングが強まるかを調べ、2020年度中に研究成果を学術論文として報告し、その分子細胞メカニズムの一端を明らかにした。苔状線維ーCA3錐体細胞シナプスでは、高頻度の活動電位が起こると、cAMPが上昇し、長期にわたる神経伝達物質の放出増強が誘導される。今後は、これまでの成果を足がかりに、活動電位により誘導されるようなより生理的な放出増強において、薬理学的なcAMPの上昇のときと同様にカップリングが強まるのか、また他のしくみがとってかわるのかを、電気生理学的に検討する。そのうえで、超解像顕微鏡技術を用いて、長期のシナプス伝達増強を支える分子基盤を明らかにすることを試みる。
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