2020 Fiscal Year Research-status Report
統合失調症モデルマウスの巨大なスパインが神経発火に与える非線形的効果の機序解明
Project/Area Number |
20K15908
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
白井 福寿 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, リサーチアソシエイト (20849038)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | シナプス形態解析 / 樹状突起スパイン / イメージング / ケージドグルタミン酸アンケージング / 電気生理的解析 / 非線形性 |
Outline of Annual Research Achievements |
統合失調症の病態生理にシナプス機能の障害が関与すると考えられているが、如何なるシナプス障害が重要であるのか、定量的にはほとんど明らかにされていない。シナプスが障害された場合に、樹状突起での演算処理や神経発火に対してどのような影響を及ぼすのかは全くの未解明である。申請者は、複数の統合失調症モデルマウスの前頭前野領域の比較検討を行い、これらの疾患モデルマウスでは共通して、巨大な樹状突起スパインが出現し、ワーキングメモリーが障害されている事を見出した。現時点でシナプス異常と行動との間の因果関係を示すことは困難であるため、本研究では神経細胞レベルに対象を絞り、スパインへの入力が樹状突起を介して神経発火を惹起するまでの過程の定量的な知見を蓄積したいと考えた。単一スパインを選択的に刺激する事の出来るグルタミン酸アンケージング法とカルシウムイメージング、電気生理学的手法を組み合わせ、スパインサイズが樹状突起演算機能および神経発火との関係性について形態学・機能学的に検証した。樹状突起スパインを複数同時期に活性化する事で神経発火を誘発することができるが、巨大なスパインは、通常よりも少数のスパイン数で発火が誘発できた。中には、たった一つの巨大スパインの刺激により発火が誘発された例も観察された。また、巨大スパイン同士は近い距離に複数分布する(クラスタリング)傾向があり、クラスタリングした巨大スパイン群はより高頻度で発火を誘発した。以上から、巨大スパインは、通常のスパイン群と比較して数的・電気生理的(EPSPなど)により弱い刺激条件で神経発火を誘導する性質が示唆される。また興味深いことに、異なる統合失調症モデルマウスでも同様の実験結果が得られつつある。引き続き、巨大スパインの性質を様々な観点から解析する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請では、どのようなシナプス入力が(巨大なスパインが1つでもあれば良いのか、複数必要なのか?樹状突起におけるスパインの分布は重要なのか?)という問いを設定していたが、本年度の実験により答えを得ることができた事から順調に進展していると考えている。また、異なる遺伝的背景を持つ統合失調症モデルマウス系統においても同様の現象が確認できたことは、我々が観察された現象が生理的・病理学的にどのような意味を持つのかを考察する上で重要な成果であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本申請の申請にあるように、特定のスパインを操作する分子マーカーや、各種チャネルブロッカーを用いた電気生理学的解析を推し進め、本現象の分枝基盤を明らかにする。また、神経細胞・神経回路レベルでのモデルを構築し、シミュレーションすることにより本現象の確からしさの検証や新たな仮説創出に活用する。
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Causes of Carryover |
経費として予定していた顕微鏡システムや消耗品についての支出が想定より低くなったことが主な要因である。次年度では、解析をより本格化し、複数のマウス系統を用いた解析を行う予定である。そのためのマウスの飼育維持費や試薬類、その他消耗品の増額が予想され、それらを調達するために助成金を用いる。
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