2020 Fiscal Year Research-status Report
Molecular and functional analysis of neural network of the circadian clock
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20K15921
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
坪田 有沙 (平野有沙) 筑波大学, 医学医療系, 助教 (60806230)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 概日時計 / 視交叉上核 / 睡眠リズム |
Outline of Annual Research Achievements |
視床下部の視交叉上核は概日時計システムの中枢であり、生体としてうまく調和した様々な生理リズムを制御する。細胞内における概日時計の発振メカニズムは分子レベルで解明が進んでいる。しかし、SCNの時計細胞そのものは単なる分子振動体を内在しているだけであり、時刻情報の出力系こそが生理機能(行動・代謝など)のリズム発現に重要であるが、時計発振制御に比べて視交叉上核の神経からの出力機構の研究は大きく遅れている。研究代表者はこれまで、視交叉上核から神経投射を受ける領域を網羅的に同定し、その中で睡眠リズムに関与する神経回路を明らかにした。本研究では、それをさらに発展させて神経投射の異なる視交叉上核の神経群を解剖学的・機能的に比較解析し、睡眠リズムだけでなく、体温リズム、ホルモン分泌などに関与する神経群・神経回路を同定することにより複雑な生理リズムを形成する神経ネットワークを統合的に理解することを目指す。Creドライバーマウス系統および各種ウイルスのマイクロインジェクションを用いて領域・神経種特異的に神経をラベルし、光遺伝学・薬理遺伝学的な解析から回路の機能解析を行う。まず、視交叉上核の神経の細胞集団の不均一性がどのように形成されているのかを明らかにするため、視交叉上核の神経細胞を投射先によってラベルし、その視交叉上核内の分布の違いや遺伝子発現のプロファイルを明らかにする。睡眠リズム形成に関与する神経回路は既に同定しているが、その性状解析を詳細に行うことでリズム形成のメカニズムを明らかにする。さらに、新しく見つけた体温リズム形成に関わる神経領域と中枢時計を繋ぐ神経回路の同定とその機能解析を行い、体温リズムを生み出す神経基盤を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、睡眠リズムを生み出す神経回路の機能的な性状解析を行った。神経毒素を用いて睡眠中枢へ神経投射する神経を特異的に抑制し、マウスの行動リズムへの影響を解析した。脳波測定により、睡眠覚醒リズムを調べたところ、マウスの睡眠覚醒リズムが大きく減弱することが明らかになった。これは、これまでの研究で明らかになっていた自発行動量のリズムの結果と一致する。興味深いことに、睡眠覚醒リズムが見られないマウスにおいて輪回し行動を調べたところ、恒暗条件においても長周期の行動リズムが観察された。つまり、このマウスにおいては睡眠リズムはないものの輪回し行動のようなアクティブな行動にはリズムが残っており、視交叉上核から少なくともふたつの経路が生理リズムの形成に関与していると考えられた。これらの知見は、様々な生理リズムが視交叉上核を起点とした複数の神経回路網によって制御されているという本研究の作業仮説を支持する。さらに、このときの時計機能を調べるためにPER2タンパク質にルシフェラーゼを融合させたタンパク質を発現するノックインマウスを用いて細胞時計の可視化を行った。その結果、睡眠リズムがなくても時計タンパク質の発現リズムに影響はなく、さらに視交叉上核の細胞同士の同調にも影響はなかった。このことは、時計機能ではなく、時計の出力系のみが阻害されていることを示唆する。次に、自由行動下のマウスにおける細胞時計を解析するため、非侵襲測定系を用いてPER2の発現リズムを測定する実験系を構築した。重要なことに、視交叉上核から睡眠中枢へ到る神経回路のみを阻害したマウスでは睡眠リズムが見られないが、PER2タンパク質のリズムは観察された。このように、概ね順調に研究が進んでいるが、新型コロナウイルスの拡大により、在宅勤務を行っている期間があり、解析中のマウスの処分を余儀なくされるなど研究の進捗に少なからず影響があった。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度では、睡眠リズム形成に関わる神経基盤については大きな進展があった。一方、体温リズム形成に必要な脳領域は同定したものの、そこに到る神経回路を同定することができなかった。神経連絡ではなく、脳脊髄液などを介した液性因子が体温リズム形成に関与している可能性を探り、体温リズム形成の神経基盤を明らかにする。実際に、VIPなどの神経ペプチドは視交叉上核で強く発現しており、その脳室内濃度が概日変動している。重要なことに、そのような神経ペプチドには脳室内の投与によって体温の変化をもたらすものが存在する。そこで、体温リズム形成に関わる脳領域のRNAseqを行い、体温調節に関与する生理活性物質の受容体の発現パターンを解析する。さらに、その生理活性物質を脳室に投与したときの体温への影響をサーモグラフィーを用いて解析し、体温リズム形成への関与を検証する。一方、内分泌系の中枢といわれる室傍核には視交叉上核から極めて強い投射が確認されている。次年度は、室傍核に到る経路を特異的に阻害、または活性化したときの内分泌系への影響を明らかにする。また、室傍核と睡眠中枢に投射する神経群が異なる神経集団を形成するかどうかを明らかにし、神経マーカーを同定することで視交叉上核における神経細胞の不均一性を理解する。これらの解析から、生理リズムを生み出す神経基盤の全体像に迫る。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの拡大により在宅勤務期間があり、解析を一時停止していた時期があった。また、初年度はアメリカからの輸入業務が滞っている時期があり、備品の購入を次年度に遅らせる必要があったため。さらに、すべての学術会議がオンラインになったことで出張旅費を計上しなかった。本年度にまわした予算は、当初の予定通り研究を遂行するための消耗品(試薬類(抗体、血清)と実験系プラスチック(チューブ、プレート、埋め込み式温度・行動センサー))の購入、学術大会参加のための出張旅費の購入にあてる。
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Research Products
(4 results)