2020 Fiscal Year Research-status Report
脳梗塞巣に自己再生する幹細胞(iSCs)の性質と発生機序の解明研究
Project/Area Number |
20K15938
|
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
佐久間 理香 関西学院大学, 理工学部, 助教 (90780180)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | ペリサイト / 脳梗塞 / 低酸素無糖条件 / 多能性幹細胞 / 炎症 / pH |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度はペリサイトの多能性獲得に関わる因子について検討した。正常大脳皮質より単離した正常脳ペリサイトと脳梗塞モデルの虚血領域から単離したiSCにおいてマイクロアレイによる遺伝子網羅的解析を実施したところ、炎症にて誘導されるCOX-2、アシドーシス(酸性化)の要因となるCA9(Carbonic Anhydrase 9)の発現量が増加していることを突き止めた。梗塞領域においては炎症が発生しており、ミクログリアなどが神経細胞などの死細胞を貪食している。また、幹細胞化による酸性環境にて培養すると自己複製能が増加することから、炎症による酸性化が鍵となっているのではないかと考えている。また、現行法の低酸素無糖条件(OGD負荷)においてこれらの因子に変化があるのかどうかを検討したところ、CA9については減少しており、COX2については変化が見られなかった。これらのことより、幹細胞化に近づけるにはこれらの因子を増加させることが重要になるのではないかと考えている。 さらに、アシドーシスの要因であるプロトンイオンの増加によりミトコンドリア呼吸が亢進しているのではないかと考え、近年ミトコンドリアの形態が変化することが注目されていることから、iSC、ペリサイト、OGD負荷ペリサイトにおいてミトコンドリアの形態を観察したところ、iSCにおいてペリサイトよりもミトコンドリアの発現量が増加しており、GD負荷ペリサイトでは融合、OGD負荷ペリサイトでは分裂しているといった変化が見られていた。今後ミトコンドリアの形態やその活性を検討することで、ペリサイトからiSCへの評価を検討できるのではないかと考えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在ペリサイトの幹細胞化現象の鍵として炎症や酸性化に着目しているため、当初の目的である低酸素-再酸素化によるペリサイト幹細胞化検討とは少しかけ離れているようにも見えるが、炎症部位においても活性酸素が多く産生されており、活性酸素の放出により種々の細胞や液性因子が障害されることで炎症が惹起されることから、酸化ストレスとの関連は高い。加えて、活性酸素種ROSを測定した実験にてペリサイトよりもiSCの方が高く検出されていることが判明している。さらにiSCにおいて抗酸化因子Nrf2がリン酸化されているようなバンドを検出していることから、酸化ストレスが加わることが幹細胞化の鍵であることに変わりはないと考えている。そのため、実験計画は概ね順調に進展していると評価している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の結果より、ペリサイト幹細胞化に活性酸素、炎症及び酸性化の関与が示唆されているため、それらの因子に着目して研究を進めている。まず、正常脳ペリサイト及びiSCに対して炎症性刺激を与え、幹細胞化、スフェロイド形成数に変化があるのかどうか検討している。次に、疾患などでカルシウムイオンが過剰に流入して活性酸素が発生するため、ペリサイト及びiSC、OGD負荷ペリサイトにおいてカルシウムイオンの濃度測定についても実施しており、その結果に伴ってカルシウムイオン流入促進剤、カルシウムイオンチャネルブロッカーを添加することで遺伝子発現に変化があるかどうかについても検討している。 また、ペリサイトiSCに対して細胞内pH測定試薬にて細胞内pHを測定しており、iSC、ペリサイトにおいて酸性及び塩基性培地にて培養し、幹細胞マーカーに変化があるのかどうかを検討している。さらに、ペリサイト、iSCにNrf2が直接関与しているのかどうかを酸化ストレスを模した環境(Nrf2賦活剤添加など)にて培養し、幹細胞、山中4因子の発現量の変化を実験を進めている。 そして今後、虚血ペリサイトと同様の現象が他の虚血性疾患についても引き起こされるかどうかについても検討するため、心筋梗塞モデルから心筋細胞を単離法を確立し、発現が変動する遺伝子を比較することで知見を得る。
|