2020 Fiscal Year Research-status Report
新奇な構造と生物活性を有する大村天然物エバーメクチン類の収束的合成法の確立
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20K15962
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
君嶋 葵 北里大学, 感染制御科学府, 助教 (10832404)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 全合成 / ケミカルライブラリー / 創薬化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
エバーメクチン(AVM)は、大村智記念研究所において単離された抗寄生虫・殺虫活性を示すマクロライド系天然物である。AVM類の化学修飾により導かれるイベルメクチン(IVM)は、抗感染症薬や抗寄生虫薬として全世界で利用されている。この様なAVM類の誘導化による創薬研究は国内外で活発に展開され、10種以上の医薬や動物薬、農薬が市販されてきた。そして近年、世界規模の研究と臨床データから、AVM類が新たに新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)等に対する抗ウイルス活性や、抗寄生虫、抗菌、抗腫瘍活性を示すことが明らかになった。これまでに当研究所ではAVM類の魅力的な生物活性に着目し、天然物から半合成的に1000種以上のAVM誘導体を合成し、独自の活性評価系を用いた創薬研究を展開してきた。その研究過程で各新作用の構造活性相関は既知の抗寄生虫・殺虫活性とは異なることが判明し、その解明が望まれている。既にAVM B1aの全合成例は4報存在し、それぞれが特徴的な手法で母骨格を構築している。しかし、AVM類は複雑な構造を持つため、いずれの全合成例も保護基の着脱と官能基変換に多段階を要した直線的な経路であり、総工程数が50工程を超えていることが改善すべき点として挙げられる。そのため、AVM類の全合成を基盤とした誘導化の報告はなく、既存薬を含めた誘導体はいずれも天然物からの半合成か生産菌の遺伝子操作によってのみ導かれてきた。これらの手法は既知の抗寄生虫・殺虫薬の開発には有効だが、問題点として母骨格の変換や官能基選択的な変換に限界があるため、新作用の構造活性相関の解明には至っていない。そこで我々は、AVM類の各新作用の構造活性相関の解明を目的に、既存の手法では困難な変換を可能とする全合成的な誘導体合成法の確立によるAVM類の新規化合物ライブラリーの構築を目指し、本研究に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書に示した戦略に則り、これまでにIVMのアグリコンを分割したフラグメントであるビニルヨージド、スルホン、ビスエポキシドの合成を達成している。そこでIVMの上部ユニットの合成を目指し2つのカスケード反応の条件検討を行った。1つ目のカスケード反応は、スルホンからビスエポキシドへの付加による開環に続く、生じた水酸基の保護を一挙に行うものである。しかしながら、本反応は当初期待していた反応条件においてカップリングに用いる片方の分子が反応条件において不安定であり、目的としない副反応により複雑な混合物を与える結果となった。そこで用いる試薬の種類やそれらを加える方法と順序、更に反応温度を調整することで目的の反応が進行する条件を見出した。ところが生成物が空気雰囲気化で不安定であり、精製過程で副反応が進行した化合物のみが中程度の収率で単離可能であった。そこで生成物の不安定性を反応性が高いと捉え、カップリング反応が進行した後の更なる変換によって安定な基質に導くこととした。種々検討の結果、先に見出した反応条件を用いてカップリング反応を進行させた後、新たな試薬の添加により更に反応が進行した化合物を高収率で与える条件を確立した。続く2つ目のカスケード反応は、ルイス酸存在下ビニルヨージドからエポキシドへの付加が進行した後、分子内のオキソカルベニウムカチオンに対してエポキシド由来の水酸基が巻き込むことでスピロアセタールを形成するものである。本反応において飽和塩化アンモニウム水溶液を用いた後処理では室温において基質の分解が確認されたため、低温下でのクエンチとスピロアセタール化の促進を目的にAcOHを用いて後処理を行ったところ、IVMの上部ユニットに相当する目的化合物を中程度の収率で取得した。上記の様に3つのフラグメントを2工程で連結する条件の確立を達成した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、IVMのアグリコン下部に相当するβ-ラクトンフラグメントの合成を行う。その後、合成が完了した上部ユニットとのカップリングを進行させた後、分子内カップリング(閉環メタセシス反応)によりIVMのアグリコンへと導き、最後にグリコシル化によってIVMの全合成を達成する。次に、数十年に亘って天然物を単離、培養取得し、誘導体合成を行ってきた当研究所でしか持ちえない物性等の知見を参考に、天然物からの半合成や生産菌の遺伝子変換によっての合成が困難であると考えられる誘導体を設計する。そして、設計した誘導体の構造を基に立体化学や官能基を変換した各フラグメントを調製し、確立したIVMの全合成経路に組み合わせて用いることで多種多様な誘導体を拡散的に合成する。一方で、確立した全合成経路をマイクロフローリアクターへの最適化により、自動合成へ応用も視野に入れている。自動合成の反応条件に構造を変換した各フラグメントを組み合わせて用いて新規誘導体を一挙に合成することで、簡便且つ効率的にAVM類のコンビナトリアルライブラリーを構築可能である。次に、合成した新規化合物群や各フラグメント及び、合成中間体を含めた誘導体を当研究所が有する新型コロナウイルス感染評価系や、マラリアを含む新たな抗寄生虫活性や抗菌、抗ウイルス、抗腫瘍活性評価系で評価する。得られた活性試験の結果を基に、確立した自動合成技術を用いて誘導体の構造を変換し、その中で生物活性を示した化合物を更なる高活性誘導体へと導く。上記方法により、動物実験で治療効果を示す新規リード化合物の創製と構造活性相関の解明、及び病原特異的に強力な活性を示す化合物の探索を行い、様々な疾患の薬剤候補化合物を一つでも多く創製していきたい。
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