2020 Fiscal Year Research-status Report
パースルフィドによるタンパク質酸化損傷修復メカニズムの解明
Project/Area Number |
20K15983
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
高田 剛 東北大学, 医学系研究科, 助教 (20733257)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | パースルフィド / 超硫黄分子 / 酸化修飾 / レドックスシグナル / 酸化ストレス / リン酸化修飾 / カルモデュリンキナーゼ / チオレドキシン |
Outline of Annual Research Achievements |
アルツハイマー病やパーキンソン病など高齢者に多い脳の病気において、酸化したタンパク質が蓄積し、細胞が損傷を受け、最終的に細胞死に至る。近年、多くの精神・神経疾患の原因の1つとして活性酸素が注目されているが、不可逆的な酸化状態からタンパク質システイン残基を保護する機構は不明なままであった。一方、システインパースルフィド(Cys-SSH)などの硫黄が連結伸長したパースルフィド化合物は、通常のチオール化合物に比べて高い求核性を有すると共に、求電子性の両方の性質を有しており、複雑なレドックス活性を持つ「超硫黄分子」として生体内で多彩な生理機能を発揮している。最近我々は、パースルフィドがタンパク質システイン残基の過度な酸化修飾に対する防御機能を有していることを明らかにした。本研究では、これまで全く知られていなかった「パースルフィドによるタンパク質酸化損傷修復メカニズム」の解明を目的とした。 当該年度は、チロシン脱リン酸化酵素(PTP1B)の不可逆的な酸化修飾とそれによる酵素活性阻害に対して、パースルフィド化が可逆性を付与し、チオレドキシン系(Trx1, TRP14, TRP32)により酵素的に還元されることを証明した。また、カルモデュリンキナーゼ(CaMK)群において、不可逆的な親電子物質による修飾とそれによる酵素活性阻害に対して、パースルフィド化が可逆性を付与する結果が得られている。さらに、最近、生体内レドックス制御に重要な分子であるNADPHオキシダーゼ(Nox)と一酸化窒素合成酵素(NOS)が、超硫黄分子の代謝に関わることを発見した。この新規硫黄代謝経路によりパースルフィドの再活性化が確認されていることから、本研究課題であるパースルフィドによるタンパク質酸化損傷修復メカニズムと密接に関連することが予想された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画に沿ったパースルフィドによるタンパク質酸化損傷修復機構とそれによる細胞内情報伝達経路への影響についての解析を行い、概ね目標とする研究成果を得ることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
目的とした研究成果が得られており、現段階において研究を遂行する上での問題はなく、研究計画の変更の必要はないと考えている。当初の目的であるパースルフィドによるタンパク質酸化損傷修復メカニズムに加えて、我々が新たに見出した新規硫黄代謝経路がタンパク質酸化損傷修復に及ぼす影響についても検討し、超硫黄分子を介したタンパク質酸化損傷修復の全容解明に向けて、引き続き当初研究計画に基づいて研究を推進する。
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Causes of Carryover |
実験実施計画等を見直し効率的に研究を行った結果、硫黄代謝物の分析等において、当初計画よりも少ない経費で目的とした研究成果が得られた。また、当該年度に得られた研究成果を基に国内外の学会において発表する予定であったが、新型コロナウイルスの流行により延期およびオンラインでの開催となったため旅費等による出費が抑えられた。本研究の目的であるパースルフィドによるタンパク質酸化損傷修復機構とその生理機能の解明に向けて、次年度におけるさらに詳細な分子メカニズムの解析のために使用する。
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