2020 Fiscal Year Research-status Report
転写活性化因子MRTFによるシナプス―核間情報交換を介した遺伝子発現制御系の解析
Project/Area Number |
20K15989
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
伊原 大輔 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 助教 (20804561)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 遺伝子発現 / シナプス / 転写因子 / SRF / MRTF / MKL |
Outline of Annual Research Achievements |
転写因子を介した最初期遺伝子群(IEGs; immediate-early genes)の発現は、神経可塑性の基礎過程として重要である。転写因子SRFは、脳形成と機能に重要であり、そのコファクターの1つがMRTFである。MRTFは脳に高発現しているが、遺伝子発現におけるMRTFの機能については未解明な点が多い。 申請者らは最近、MRTFファミリーの1つ・MRTFBがシナプス可塑性関連遺伝子の1つArcのエンハンサー活性化に関わることを報告した。さらに最近、神経細胞のシナプス活性化が、MRTFBの核移行を引き起こすことを発見した。つまり“MRTF-SRF経路”は、記憶・学習に重要な“シナプスから核へ”の情報伝達を担う新規の経路だと強く示唆される。 本研究では、様々な阻害剤を用い、シナプス活性化によるMRTFBの一過的な核移行が神経活動やRhoシグナリングに依存しているが、遺伝子発現について、シナプス活性化によるSRF介在性転写活性化や、IEGの1つ・junB遺伝子の発現誘導についても、NMDA受容体、L型電位依存性Ca2+チャネル、Rhoキナーゼ阻害剤により抑制された。さらにChIPアッセイの結果、予備的ではあるが、シナプス活性化によりjunBエンハンサー上へのMRTFBの集積は増加した。 このように、MRTFBの核移行とSRF介在性の遺伝子発現にはほぼ整合性があり、新規の“シナプスから核へ”のシグナリング機構“MRTF-SRF経路”が実証されつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各種阻害剤を用いた解析を行った結果、シナプス活性化によるMRTFBの一過的な核移行は神経活動やRhoシグナリングに依存しているが、シナプス活性化によるSRF介在性転写活性化はNMDA受容体、L型電位依存性Ca2+チャネル、Rhoキナーゼ阻害剤により抑制された。さらに、シナプス活性化によるSRF介在性転写活性化はMRTFAおよびMRTFBのノックダウンによっても抑制された。また、IEGの1つであるjunB遺伝子の発現様式はMRTFB核移行とほぼ整合性のある結果であった。さらにChIPアッセイの結果、シナプス活性化によりjunBエンハンサー上へのMRTFBの集積は増加した。以上の点から、本年度の研究の達成度はおおむね順調に進展している、と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
核移行に関与するMRTFBのドメインを明らかにするため、各ドメインを欠損させた発現ベクターを構築し、これらを神経細胞で発現させ、細胞内局在変化や転写活性変化について解析を行う。 MRTFは転写コファクターとして多くの遺伝子の発現を調節すると予想されるため、ChIPシークエンスによる遺伝子発現の網羅的な解析を行う。
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Causes of Carryover |
本年度の分子生物学的実験を行うにあたり、すでに購入していた消耗品を使用したため。
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