2020 Fiscal Year Research-status Report
初代培養肝実質細胞の増殖に対するS-アリル-L-システインの効果に関する研究
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20K16011
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Research Institution | Josai University |
Principal Investigator |
茂木 肇 城西大学, 薬学部, 助教 (00582272)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | S-アリル-L-システイン / 細胞増殖促進作用 / 肝実質細胞 / インスリン様増殖因子1(IGF-1) |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はS-アリル-L-システイン(SAC)とその他の含硫アミノ酸の初代培養肝実質細胞に対する増殖促進効果について検討した。SACは、培養時間および用量に依存して肝実質細胞の増殖促進効果を示すことが認められた。一方、SACと同じ含硫アミノ酸で構造の類似性が高いS-メチルシステイン、S-エチルシステイン、アリインおよびアリシンは、それぞれ有意な肝実質細胞増殖促進効果を示さなかった。これにより、含硫アミノ酸のうち、SACのようにアリル基を有する化合物は肝実質細胞に対して増殖促進作用を示すが、その構造中のイオウ部に酸素が付加した化合物(アリイン)では、細胞増殖効果が減弱することも判明した。 次にSACの肝実質細胞増殖促進作用機構について特異的シグナル伝達因子阻害薬を用いて検討した。その結果、SACにより誘発された肝実質細胞増殖促進作用は、LY294002(PI3K阻害薬)、PD98059(MEK阻害薬)およびラパマイシン(mTOR阻害薬)により有意に抑制した。また、Western blot解析法により、SACがERK2のリン酸化活性を促進したことから、SACは、肝実質細胞の増殖シグナル経路として認められているPI3K/MEK/ERK2/mTOR経路を介していることが明らかとなった。 更にAG538(特異的インスリン様増殖因子(IGF)-1受容体チロシンキナーゼ阻害薬)やソマトスタチン(脱顆粒阻害薬)、IGF-1中和抗体を用いた薬理学的手法にてSACにおける細胞増殖促進の抑制が認められた。これらの結果より、SACは肝実質細胞に存在するIGF-1を何らかの機構により分泌させ、分泌されたIGF-1が自身の細胞に作用することでIGF-1受容体チロシンキナーゼを活性化し、これがPI3K/MEK/ERK2/mTOR経路を活性化することにより肝実質細胞の増殖を促進していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の計画としては、SACおよびその他の含硫アミノ酸の細胞増殖能やDNA合成能を様々な培養条件(SAC刺激後の培養時間、用量依存性、播種時細胞密度)により検討すること、培養条件が整ったところで、SACの細胞増殖促進作用がどのようなメカニズムで進行するのかを検討することの2点である。 1点目の培養時間および用量の依存性、播種時細胞密度に関するSACの細胞増殖能はほぼ検討できた。DNA合成能は、[3H]チミジンの取り込み量実験よりも安全なNon-RI手法として、Muse Cell Analyzer(Merck)を用いたS期(DNA合成期)移行性について検討した。こちらにおいてもSACは培養時間および用量に依存してS期移行性の増加が認められた。 2点目のSACの肝実質細胞増殖促進作用機構の検討では、当初予定していたPI3K、MEK、mTOR、IGF-1受容体チロシンキナーゼに対する特異的なシグナル伝達因子阻害薬については検討することができた。更に次年度に予定していたERK2リン酸化活性の測定についても前倒しで検討することができ、これらの結果より、SACがPI3K/MEK/ERK2/mTOR経路を活性化していることが明らかとなった。 上記の結果よりSACの肝実質細胞増殖促進作用は、IGF-1受容体の関与していることが示唆された。これにはSACがIGF-1受容体に対して直接的に作用するのか、あるいはSACがIGF-1分泌を促進することによる間接的な作用によるものなのかを検討する必要があったため、SAC誘発細胞増殖促進作用に対するソマトスタチン(脱顆粒阻害薬)および肝実質細胞が持っているIGF-1中和抗体の効果についても検討した。その結果、これらの阻害薬および中和抗体によってSACの肝実質細胞増殖促進作用の抑制が認められたことから、SACはIGF-1の分泌を促進することが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はELISA法を用いてSAC刺激後の培養液中のIGF-1量を定量し、その影響を検討する。また、SACの肝実質細胞におけるIGF-1分泌促進作用に対する特異的シグナル伝達因子阻害薬の影響を調べることにより、SACによるIGF-1分泌機構について検討する。肝実質細胞においてIGF-1は成長ホルモンの刺激により、JAK/STAT経路が活性化され、IGF-1の分泌が促進すると考えられているため、これらの因子の阻害薬を用いて検討する予定である。 また、初年度の検討により、SACの肝実質細胞増殖促進作用に関わりの深い蛋白質のリン酸化活性については、引き続きWestern blot解析法を用いて検討する予定である。特に、IGF-1受容体チロシンキナーゼ、Raf(MAPキナーゼ経路におけるMEKの上流に存在する蛋白質)、mTORなどを中心に測定・検討する予定である。さらに、上記のSACによるIGF-1分泌機構の検討において関与が深い蛋白質(例えばJAKやSTATなど)についても検討する予定である。 更に、分子生物学的検討も行う。即ち、SACの肝実質細胞増殖促進作用では、どのような遺伝子(mRNA)が影響しているのかを検討するため、リアルタイムPCR解析法を用いて、増殖シグナルに関連した遺伝子のmRNA発現量を測定することを予定している。例えば、肝再生時に高発現している癌原遺伝子(c-myc, c-jun, c-fosなど)やアドレナリン受容体の定量を検討している。特にアドレナリン受容体に関しては、3年目のSACの肝実質細胞増殖促進作用に対するアドレナリン作動性増強について検討する予定であるため、それらの基礎データとして有用かと考えられる。
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Causes of Carryover |
計画当初に購入を予定していたプラスチック器具(細胞培養プレート)よりも安く購入することができたため、若干の次年度使用額が生じた。これは、次年度の交付予定額(直接経費)のうちの消耗品費(約20万)に上乗せして使用する予定である。
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