2021 Fiscal Year Research-status Report
初代培養肝実質細胞の増殖に対するS-アリル-L-システインの効果に関する研究
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20K16011
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Research Institution | Josai University |
Principal Investigator |
茂木 肇 城西大学, 薬学部, 助教 (00582272)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | S-アリル-L-システイン(SAC) / 肝実質細胞 / インスリン様増殖因子1(IGF-1) / Janus kinase 2:JAK2 / 成長ホルモン受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、初代培養肝実質細胞におけるS-アリル-L-システイン(SAC)のインスリン様増殖因子1(IGF-I)分泌およびそのメカニズムについてELISA法および蛍光イメージングにより検討した。SAC刺激後の初代培養肝実質細胞において、細胞内IGF-Iの消失および培養液中IGF-I量の上昇が認められた。培養液中IGF-I量は、SAC刺激後10分で有意に上昇し始め、刺激後20分にはピークに達した。一方、SAC誘発IGF-I分泌作用は、JAK2阻害薬(TG101209)、PLC阻害薬(U-73122)および細胞内Ca2+キレート剤(BAPTA-AM)により抑制された。Western blot法によりタンパク質リン酸化活性を測定したところ、SACがJAK2、PLC、IGF-I受容体チロシンキナーゼ(IGF-I RTK)リン酸化を促進したことが認められた。加えて、SAC誘発PLCおよびIGF-I RTKリン酸化活性は、JAK2阻害薬により有意に抑制されたことから、SACのIGF-I分泌シグナルにおいてJAK2は、PLCやIGF-I RTKの上流に存在することが明らかとなった。また、Ca2+イメージングによりSACが肝実質細胞内のCa2+濃度を上昇させたことも認められた。更に、蛍光イメージングにより、SACがその用量依存して成長ホルモン受容体(GHR)モノクローナル抗体とGHRとの結合を阻害したことが認められた。以上の結果より、SACは、肝実質細胞に存在する成長ホルモン受容体に結合し、JAK2/PLC/Ca2+経路を活性化することによりIGF-Iの分泌を促進することが示された。 上記の検討に加え、リアルタイムPCR解析法を用いて、SACにより誘発されるmRNA発現量を測定した。その結果、肝再生時に発現し癌原遺伝子であるc-mycがSAC刺激により有意の増加したことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の結果より、初代培養肝実質細胞においてSACがIGF-Iの分泌を促進させたことが示唆された。そこで、本年度はELISA法を用いてSAC刺激後の培養液中のIGF-I量を定量した。IGF-I分泌機構についてはSACと特異的シグナル伝達因子阻害薬を併用することにより検討した。SACによるIGF-I分泌効果およびその作用メカニズムは、「研究実績の概要」に示したように、概ね順調に進展している。SACによるIGF-I分泌効果はELISA法だけでなく、蛍光イメージングについても検討することができた。 昨年度に引き続きWestern blot法を用いたSACによるタンパク質リン酸化活性についても検討し、昨年度のERK2に加えSACによるJAK2、PLCおよびIGF-I RTKリン酸化についても測定することができた。加えて、SACによる細胞内Ca2+濃度の上昇もCa2+イメージングにより実証することができ、これらの結果より、SACが肝実質細胞においてJAK2→PLC→Ca2+の順にシグナルを伝達し、IGF-Iの分泌を促進させたことを明らかにすることができた。 さらに本年度は、蛍光イメージングによりSACがどの受容体を刺激し、JAK2/PLC経路を活性化させているのかも検討することができ、SACが成長ホルモン受容体を刺激することによりJAK2/PLC/Ca2+を介することも実証することができた。 上記の検討に加えて、リアルタイムPCR解析法を用いた遺伝子発現についても測定した。結果として、癌原遺伝子で細胞増殖に影響を及ぼすc-mycがSAC刺激後の肝実質細胞において、有意に増加することが明らかとなった。次年度はその他の癌原遺伝子(c-fosやc-junなど)だけでなく、細胞周期に関連する因子(cyclin AおよびB)やアドレナリン受容体(α、β)についても測定する。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、SACの肝実質細胞増殖促進作用が、交感神経系のα1作動性増強かβ2作動性増強か、もしくはその両方の作動性増強を受けるかを検討する。例えば、β2作動薬であるメタプロテレノールとSACを併用した場合、SAC単独よりもさらに細胞増殖効果が促進されるのか、β2作動性シグナルのどの因子(サイクリックAMPやプロテインキナーゼA)が関与するのか、また、それらの因子がSACの増殖シグナルのどの因子と相互作用するのか(JAK2、PLC、IGF-I RTK、ERK2など)について、肝細胞核のカウントやWestern blot法によるタンパク質リン酸化活性の測定を行う。α1作動性シグナルについても同様の方法で検討する。 また、リアルタイムPCR解析法によるmRNA発現量を測定も引き続き検討する。主に、c-fos、c-jun、 cyclin AおよびB、アドレナリン受容体(α、β)などを測定する。
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