2020 Fiscal Year Research-status Report
脳梗塞時のペリサイト選択的K-ATPチャネルの役割の解明
Project/Area Number |
20K16014
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Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
安藤 康史 日本医科大学, 先端医学研究所, 講師 (10736010)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ペリサイト / 脳梗塞 / Abcc9 / Kcnj8 / K-ATPチャネル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は中枢においてペリサイト選択的に発現するKCNJ8およびABCC9遺伝子から構成されるATP依存性カリウムチャネル(K-ATPチャネル)の脳梗塞時における役割を明らかにし、本ペリサイト選択的K-ATPチャネルに対する選択的作動薬を用いた新規脳梗塞治療の実現である。本年度は野生型マウス、Kcnj8欠損マウス、Kcnj8またはAbcc9活性化変異マウス(Kcnj8C141S,Abcc91151Q)を用いて、脳梗塞後の梗塞領域・神経傷害スコア・脳血流・血管透過性を調べた。脳梗塞の誘導には両側頸動脈結紮を予定していたが十分な脳組織障害を誘導できず、フィラメントの血管内留置による一過性片側中大脳動脈閉塞術による脳梗塞モデルを用いた。45分から1時間の片側中大脳動脈閉塞により、野生型マウスと比較してKcnj8欠損マウスでは梗塞巣および神経傷害の増大が認められるとともに術後数時間から24時間以内に死亡が多く認められた。一方、活性化型変異マウスでは梗塞巣および神経傷害が軽減される傾向が認められ、Kcnj8からなるK-ATPチャネルが脳梗塞後の傷害の軽減に重要な役割を担うことが示唆された。また、エバンスブルーの血中から脳組織への移行を調べることで脳梗塞後の血管透過性を調べた結果、Kcnj8欠損マウスではエバンスブルーの脳組織への漏出は低く、活性化型変異マウスでは増加することが分かった。特に活性化変異マウスでは梗塞巣の中心部でも漏出が顕著である一方、欠損マウスでは梗塞巣中心部での漏出は顕著ではないことから、エバンスブルーの漏出量亢進が梗塞解除後の血流回復領域の差に依存する可能性が提示された。以上の成果はK-ATPチャネル活性が脳虚血直後から必須の役割を持つこと、および虚血再灌流後の血流回復を促す可能性を示唆するものであり、次年度以降の研究基盤を充実させるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フィラメントの血管内留置による一過性片側中大脳動脈閉塞術による脳梗塞モデルによりK-ATPチャネル活性が脳虚血直後から必須の役割を持つこと、および虚血再灌流後の血流回復を促す可能性を示唆する結果が得られつつある。一方、Kcnj8欠損マウスでは顕著な血管透過性亢進は認められず、活性化型変異マウスでは血管透過性を優位に低い状態には保たれなかったことから、K-ATPチャネル活性は脳梗塞後の血管透過性の制御には大きく関与しない可能性が予想された。本年度に得られた知見はK-ATPチャネル活性化が脳梗塞後の組織障害を抑制すること、また脳梗塞時における役割の解明へと展開する研究基盤形成に貢献するものであり、おおむね期待通りに研究が進展したと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)脳梗塞におけるK-ATPチャネルの役割を明らかにするため、引き続き野生型マウス、Kcnj8欠損マウス、Kcnj8またはAbcc9活性化変異マウス(Kcnj8C141S,Abcc91151Q)を用いて脳梗塞後の脳血流再開領域の定量的解析を実施するとともに、血管形態、ペリサイトの被覆などの組織学的解析を実施する。また、タモキシフェン依存的に機能欠損を誘導可能なKcnj8条件付き欠損マウスを用いて、同様の実験を実施し、脳梗塞前の脳血管の一次的な脆弱性・頑強性基盤により神経傷害の程度に影響を及ぼすのか、梗塞・再灌流時に保護的に機能するのかを明らかにし、メカニズム解明の基盤とする。 (2)K-ATPチャネル活性化薬が脳梗塞後の傷害を軽減するか、野生型およびKcnj8(条件付き)欠損マウスを用いて同様の解析を実施する。また、K-ATPチャネル阻害剤が活性化型変異マウスにおける組織障害軽減効果をキャンセルさせるか解析を行う。上記の実験を行うことでK-ATPチャネルの活性化の有効性とその作用点がペリサイトであることを明らかにする。 (3)K-ATPチャネルによる脳保護機構を明らかにするため、脳梗塞後の組織障害を惹起することが報告されているサイトカイン、活性酸素種の産生に対する影響を解析する。 (4)ペリサイト選択的K-ATPチャネルに対する選択的作動薬の探索を実施するため、K-ATPチャネルの開口(活性化)を検出可能なハイスループットスクリーニング系の確立を行う。
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Causes of Carryover |
コロナの影響により予定していた実験に遅れが生じ、次年度へと繰越を行ったため。
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Research Products
(6 results)