2020 Fiscal Year Research-status Report
Relationship between association rate constant and characteristics of antibody-drug conjugate
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20K16021
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Research Institution | National Cancer Center Japan |
Principal Investigator |
津村 遼 国立研究開発法人国立がん研究センター, 先端医療開発センター, 研究員 (90785586)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 抗体 / 結合速度定数 / 抗体抗がん剤複合体 / 性状評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究成果の具体的内容】キメラ化抗tissue factor(TF)抗体に関して、L鎖定常領域の特定のアミノ酸残基3つもしくは5つをアルギニン残基に置換した改変型(R3もしくはR5)の作製に成功した。分子間相互作用解析装置(BiaCoreT200)により、野生型と改変型抗体の結合カイネティクスを測定した結果、改変型は野生型よりも結合速度定数が約20倍上昇した。 次に、各抗体を用いてTF高発現膵がん細胞株BxPC3に対する結合活性評価を行った結果、改変型は野生型と同等の結合性を示した。また、TFをknock outしたBxPC3(BxPC3-TF-KO)に対して同様に結合活性評価を行った結果、野生型とR3は結合しなかった一方、R5は非特異的な結合が認められた。さらに、CHO細胞を用いた各抗体の産生過程において、R5の抗体産生量は明らかに低く、R5のアミノ酸改変による抗体構造変化、非特異結合性上昇が示唆された。これらの結果から、以降は改変型R3を用いる事とした。 野生型とR3を蛍光標識し、TF陽性がん細胞への細胞内取り込み効率を測定した結果、BxPC3に対しては両者で差は見られなかった。一方、TF中程度発現膵がん細胞株PSN-1に対しては、R3の方が細胞内に取り込まれる効率が有意に高い結果であった。 【研究成果の意義と重要性】抗体抗がん剤複合体(antibody-drug conjugate, ADC)の作用機序として、標的細胞内への内在化効率は重要である。今後の検討により、改変型抗体の優位性が認められれば、結合速度定数がADCの薬効に影響与えることを実証できる。同成果により、ADCに用いる抗体クローン選択過程において、結合速度定数が重要な指標の1つになると提言可能である。また、既存のADCの薬効増強など、更に高機能なADCを創出できる可能性もあり、医療への貢献が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【進捗状況の概要】本研究課題において、①改変抗体の作製と結合カイネティクス解析、②ADCの作製とin vitroにおける性状解析、③ADCのin vivoにおける性状解析の3項目の実施を計画した。現在は項目①が終了し、項目②が進行中である。そのため「おおむね順調に進展している」とした。 【項目①に関して】キメラ化抗tissue factor(TF)抗体において、2種類(R3およびR5)のアミノ酸改変抗体の発現ベクター作製に成功した。これらの発現ベクターをCHO細胞に導入して抗体産生細胞を作製し、種々の抗体精製プロセスにより、予定通り改変抗体の作製が終了した。また、得られた改変型抗体R3とR5、および野生型抗体の結合カイネティクス解析の結果、改変型のka値は野生型と比較して約20倍上昇している事が示され、期待される結果となった。 【項目②に関して】抗体のin vitroにおける性状解析として、BxPC3およびBxPC3-TF-KOに対する結合活性試験を行い、全ての抗体のBxPC3に対して結合性を示した。一方、R5はBxPC3-TF-KOに対しても結合性を示し、予期せぬ結果となった。次にTF陽性がん細胞内への野生型とR3の内在化効率試験を行った。TFを高発現するBxPC3に対しては、同程度の内在化効率が観察されたが、TFを中程度に発現するPSN-1に対してはR3の方が野生型よりも内在化効率が有意に高く、今後の検討に繋がる結果となった。 【予期していない状況と対応策】R5の非特異結合性が上昇した原因としては、L鎖定常領域のアミノ酸残基を過剰にアルギニン残基に置換したことによる抗体分子全体の電荷の変化が考えられる。しかし、R3に関しても期待した通りka値の上昇が認められたと同時に、非特異結合性も確認されなかったため、今後の検討は野生型とR3との比較によってka値を増強する意義付けを行う。
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Strategy for Future Research Activity |
【今後の研究の推進方策】本研究課題において計画した②ADCの作製とin vitroにおける性状解析の項目を引き続き実施し、③ADCのin vivoにおける性状解析の項目を開始する予定である。以降も野生型とR3の比較検討とする。 【項目②に関して】それぞれの抗体にbrentuximab vedotinと同様の抗がん剤およびリンカーを付加して抗TF-ADCsを作製する。ADC化したことによる抗体への影響を確認するために、各ADCの結合活性を測定し、親抗体と同等の結合活性を有するか否かを測定する。次に、各ADCを用いてin vitroにおける殺細胞効果試験を行う。同試験は細胞内在化効率の異なった少なくとも2種類(BxPC3およびPSN-1)の膵がん細胞株を用いて実施する予定である。 【項目③に関して】TF陽性がん細胞株を皮下移植したヌードマウスモデルにおいて、AlexaFluor647蛍光標識を行った各抗体の腫瘍集積性をin vivo imagingにより調査する。また、少なくとも2種類(BxPC3およびPSN-1)の膵がん細胞株をヌードマウスへ皮下移植し、それぞれのADCの抗腫瘍効果を明らかにする。ADCの抗腫瘍効果に差が見られた場合は、そのマウスモデルにおいてADCの腫瘍内分布を明らかにして、抗腫瘍効果に違いが表れた要因を探索する。 【考察項目】これまでの結果と上記の検討の結果により得られた、抗体の結合カイネティクス、細胞への結合活性、細胞内への内在化効率、ADCの殺細胞効果、in vivo imagingによる腫瘍集積性評価、および抗腫瘍効果を野生型とR3で比較し、パネル化を行う。その結果を総括して、抗TF-ADCのka値変化が与えるADCの性状変化を考察する。さらに、この性状変化がADC開発に有用であるか否かを考察し、今後のADC開発への有用な知見とする。
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Causes of Carryover |
【当該助成金が生じた状況】本研究課題では、①改変抗体の作製と結合カイネティクス解析、②ADCの作製とin vitroにおける性状解析、③ADCのin vivoにおける性状解析の3項目の実施を計画した。現在、①が終了し、②を継続実施中である。これまでの検討では、主に抗体の作製と性状解析が主な内容であったため、抗体作製時においても小容量での作製が主であった。そのため、物品費の支出が予想以上に低い結果となった。 また、Covid-19の影響で国内・海外の学会参加がオンラインもしくはキャンセルとなり、旅費の支出が予想以上に低くなった。 上記2つの要因で、当該助成金が生じたと思われる。 【翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画】今後の研究実施内容は、ADCの性状評価が主となるため、ADC作製のためのリンカー(約20万円)や大容量の抗体作製(抗体作製用培養液:約15万円)の費用を計上する必要がある。また、in vivoにおける抗体およびADCの性状評価を予定しており、in vivo imagingや抗腫瘍効果試験、ADCの腫瘍内分布評価を含めて、計200匹(約120万円)程度のヌードマウスの費用を計上する予定である。さらに学会発表(約45万円)や論文投稿(約40万円)なども計画しており、旅費およびその他の費用が加算されると予想される。
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Research Products
(1 results)