2021 Fiscal Year Research-status Report
Investigation of anti-cancer effect of anti-EGFR antibody based on quantitative evaluation of its pharmacokinetics and glycosylation in cancer patients
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20K16040
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
柴田 海斗 浜松医科大学, 医学部附属病院, 薬剤師 (00857055)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | セツキシマブ / 血清中濃度 / がん悪液質 / 炎症性サイトカイン / 全身倦怠感 / 糖鎖修飾 / N型糖鎖構造解析 / 頭頸部がん |
Outline of Annual Research Achievements |
抗ヒト上皮成長因子受容体(EGFR)抗体薬のセツキシマブは、大腸がん・頭頸部がんに有効な治療薬だが、抗腫瘍効果の不十分な患者や重篤な有害作用を伴う患者が一定数存在する。がん悪液質の病態では、炎症性サイトカインの活性化によってタンパク質の異化や糖代謝が変化しており、セツキシマブもその影響を受ける可能性がある。また、がん悪液質は骨格筋量の減少や精神神経症状を引き起こすことで、セツキシマブに対する忍容性を低下させる可能性がある。本研究では、がん悪液質の病態に着目して、頭頸部がん患者におけるセツキシマブの血中動態および糖鎖修飾と臨床効果を解析し、それらに及ぼす患者背景の影響を明らかにすることを目的としている。 令和3年度において、頭頸部がん患者を対象に悪液質の進行度とその関連マーカーを評価し、血清中セツキシマブ濃度及び臨床症状との関連性について調査した。がん悪液質の進行とそれに関連する炎症性サイトカイン及び血清アルブミンの挙動は、血清中セツキシマブ濃度の低下に関連していた。また、悪液質の病態における全身性の炎症は、セツキシマブによる倦怠感の重症化に寄与していたことが明らかとなった。 また、令和2年度に引き続き、ヒト血中セツキシマブのN型糖鎖構造解析法の新規確立のために前処理方法・分析条件の検討を行った。セツキシマブの糖ペプチドへの断片化には、固相化パパインを用いた遠心消化を使用した。パパイン消化後のFabおよびFcフラグメントに対してフーリエ変換型質量分析計を用いて測定を行ったところ、検出されたピーク強度が著しく低い結果となった。そのため、タンパク消化様式の再検討と糖鎖構造を有する分析対象の変更を行う必要があると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度において、頭頸部がんにおける悪液質の進行度と血清中セツキシマブ濃度および臨床症状との関係解析を行った。臨床試験の進捗に関して、患者登録と臨床検体の収集状況はおおむね順調である。得られた臨床検体を用いて、血清中セツキシマブ、アルブミン、C反応性蛋白及びインターロイキン6(IL-6)濃度を測定した。血清中アルブミン及びC反応性蛋白濃度からGlasgow Prognostic Score(GPS)を算出し、悪液質の進行度を評価した。また、CTCAE ver. 4.0を用いて、セツキシマブ投与中における全身倦怠感及びせん妄の有無とその重症度を評価した。解析結果として、悪液質が進行したGPS 2の患者における血清中セツキシマブ濃度は、GPS 0の患者に比べて有意に低い値を示した。また、GPSの増加とともに、血清中IL-6濃度の上昇が認められ、血清中セツキシマブ濃度はIL-6濃度と負の相関を示し、アルブミン濃度と正の相関を示した。Grade 2以上の全身倦怠感を有する患者では、Grade 1以下の患者に比べて、血清中IL-6濃度が有意に高い値を示し、アルブミン濃度が有意に低い値を示した。一方、血清中セツキシマブ濃度と倦怠感の発現や重症度との間に関連性は認められなかった。また、せん妄において、その発現と血清中IL-6やセツキシマブ濃度とは関連しなかった。本研究成果に関しては、がんの専門英文誌へ論文投稿予定であり、研究課題はおおむね順調に進展していると考える。一方で、ヒト血中セツキシマブのN型糖鎖構造解析法の確立については実臨床に適用可能な段階まで至らなかった。固相化パパイン処理によりサブユニット測定では分析感度が著しく低いという問題が見られたため、還元アルキル化・トリプシン処理によるペプチドマップ測定への変更を検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、引き続き、患者登録と臨床検体の収集を行い、がん悪液質の病態に着目した解析を行う。得られた臨床検体を用いて、血清中セツキシマブ、アルブミン、C反応性蛋白及びインターロイキン6(IL-6)濃度を測定するのに加えて、その他の悪液質マーカーとして副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)や腫瘍壊死因子α(TNFα)の濃度測定を追加する。悪液質の進行度評価について、Glasgow Prognostic Score(GPS)分類に加えて、Fearonらの国際基準を用いて評価する。臨床症状については、引き続き身体症状と精神神経症状を評価するが、臨床症状に影響を及ぼす可能性のある併用薬についても解析を追加する。セツキシマブの血中動態、がん悪液質の進行度およびその関連マーカーに対して、臨床症状の重症化に関する多変量解析を追加する。 血中セツキシマブのN型糖鎖構造解析法の確立に関して、タンパク消化方法を再検討し、分析対象の糖ペプチドを変更する。パパイン処理によるサブユニット測定の代替の方法として、還元アルキル化・トリプシン処理によるペプチドマップ測定では、より低分子のフラグメントを生成することで定性かつ定量的に優れた結果が得られると予想される。確立したN型糖鎖構造解析法に対しては、各バリエーションを実施する。その後、N型糖鎖構造解析法を用いて臨床検体におけるセツキシマブの糖鎖修飾を評価し、その血中動態および臨床効果との関連性について解析を行う。 なお、2022年度より本研究の代表機関に所属していた研究代表者が共同研究機関に異動となり、研究代表機関から提供された試料および情報を用いた測定および解析を共同研究機関にて継続して実施するための倫理審査を一部終了している。
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Causes of Carryover |
発表や情報収集を予定していた国内学会・国際学会の現地開催がほとんど中止となり、旅費として計上していた経費の実支出がなかったことが次年度使用額が生じた理由として挙げられる。また、物品費として計上していた経費の実支出金額が予定金額よりも少なかったことも、次年度使用額が生じた理由として考えられる。 次年度使用額の使用計画に関して、悪液質関連マーカーの濃度測定やN型糖鎖構造解析における物品費として計上することを考えている。具体的には、バイオマーカー測定に使用するELISAキットや前処理の検討において使用する固相化トリプシンカラム、Protein Gカラムなどの購入がある。
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