2020 Fiscal Year Research-status Report
Influx・effluxの統合的理解による新薬カボザンチニブ非感受性機序の解明
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20K16043
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
松本 准 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (60709012)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 腎細胞癌 / カボザンチニブ / OATP2A1 / MATE1 |
Outline of Annual Research Achievements |
腎癌(腎細胞癌)の罹患数・死亡数は年々増加しており、その対策は重要な課題である。近年、腎癌の治療薬として免疫チェックポイント阻害剤(ICI)が登場し、大きな話題を呼んだ。一方で、現在最も効果的な経口薬として脚光を浴びているのが、新規分子標的薬カボザンチニブである。カボザンチニブは現行の第1選択薬スニチニブと比較し、患者予後を有意に改善する。また、カボザンチニブはICIと同等の優れた延命効果を示し、現在ICIとの併用に関する治験も進んでいることから、今後の腎癌治療における極めて重要な薬物である。一方で、最新の国内臨床試験より、他の分子標的薬適用後にカボザンチニブが投与された場合の客観的奏効率は20%であり、つまり80%もの患者がカボザンチニブに非感受性を示すことが明らかとなった。本研究では、カボザンチニブの取り込み・排泄機構の統合的な理解を通じ、カボザンチニブの非感受性機序を解明することを目的とする。本研究成果は、薬剤感受性の観点からカボザンチニブ、延いては腎癌全体の薬物治療成績の向上に大きく貢献する可能性がある。 本年度は、腎癌患者より拾得した腎正常組織および腎がん組織を用いて、カボザンチニブの輸送に関与する可能性がある取り込みトランスポーターOATP(organic anion transporting polypeptide)2A1、および排泄トランスポーターMATE(multidrug and toxin extrusion)1の発現と、患者予後との関連性を解析した。また、腎癌培養細胞を用いて、各解析における適切なカボザンチニブ添加濃度の決定並びに両トランスポーターの過剰発現細胞株を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、腎に高発現し、かつカボザンチニブの輸送に関与する可能性が高いトランスポーターとしてOATP2A1およびMATE1を選択し、両トランスポーターに関する解析を実施した。 臨床的な解析として、まず腎癌患者より腎正常組織および腎癌組織を拾得し、各組織におけるOATP2A1およびMATE1のmRNAおよびタンパク質発現量を解析した。その後、各トランスポーターの発現量と患者の臨床病理学的パラメータおよび予後との相関を解析した。その結果、両トランスポーターの発現量がリンパ節転移やステージ等の患者のパラメータと有意に関連すること、また両トランスポーターの発現量は患者予後とも有意に相関することが示された。一方で、現時点ではカボザンチニブを使用した患者はごくわずかであり、薬物治療成績との関連性についてはより検体数が集まる本研究期間後期に再度解析を行う必要性が考えられた。 基礎的な解析として、まず初めに腎癌由来細胞株Caki-2、KPK-1、およびOS-RC-2細胞において、カボザンチニブを添加した。3種類すべての細胞において濃度依存的な細胞増殖阻害作用が認められ、本結果を基に各細胞におけるカボザンチニブの至適添加濃度を決定した。一方で、カボザンチニブのみならず、腎癌に対する現行の第一選択薬であるスニチニブについても同様の解析を行い、本研究がカボザンチニブのみならず他の薬物においても応用が可能かを解析する準備を開始した。また、OTAP2A1およびMATE1発現ベクターを用いて、これらのトランスポーターを安定的に発現する腎癌細胞株の構築を試みた。 本年度は、新型コロナウイルス感染症の影響により研究室が一時閉鎖となった。しかしながら、臨床検体を用いた解析並びに培養細胞を用いた基礎的な解析を当初の予定通り並行しつつ実施できており、解析はおおむね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方策として、まずは今年度構築した過剰発現細胞においてカボザンチニブを投与し、コントロール細胞と比較し細胞増殖阻害作用に変化が認められるかを解析することで、両トランスポーターの発現がカボザンチニブの効果に影響を及ぼすかを検討する。カボザンチニブの効果に変化が認められた際には、阻害剤もしくはノックダウンベクターを用いることで、トランスポーターの機能もしくは発現量が低下した際にどのような変化が生じるかを解析する。さらに、LC-MS/MSを用いてカボザンチニブの定量法を確立し、構築した細胞や阻害剤を用いた検討において、実際の細胞内カボザンチニブ量を解析することで、トランスポーター発現量の変化がカボザンチニブの輸送に及ぼす影響を解析する。さらに、カボザンチニブ以外の薬物で現行のガイドライン上腎癌患者に投与される可能性が高いスニチニブおよびアキシチニブについても同様の解析を行う予定である。 上記の基礎的な解析に加え、臨床検体を用いた解析として、OATP2A1およびMATE1以外で腎組織に高発現することが知られているOCT(organic cation transporter)2やP糖タンパク質などについても、腎正常組織および腎癌組織における発現量を解析し、これらのトランスポーターの発現量が患者予後に及ぼす影響などについて解析する。その後、予後に影響を及ぼす可能性が示唆されたトランスポーターについては、本年度と同様に腎癌由来培養細胞株において過剰発現させ、カボザンチニブの輸送・効果に及ぼす影響について基礎的に解析し、最終的にはスニチニブおよびアキシチニブについても同様の解析を行うことで、本研究のカボザンチニブ以外の薬物への応用性についても解析する。
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