2021 Fiscal Year Research-status Report
分子相互作用により溶解したカルメロースを用いた新規放出制御粒子の創製
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20K16058
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
伊藤 雅隆 東邦大学, 薬学部, 助教 (30792410)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 苦味マスキング / 放出制御 / X線CT / 製剤学 / 処方設計 / 経口固形医薬品 / 添加剤 / ポリマー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではカルメロース(CMC)とメグルミン(MEG)の塩を形成することで、膨潤性を示し医薬品原薬の溶出を抑制する粒子を作製し、その苦味マスキング効果を評価することを目的とした。 モデル原薬としてアセトアミノフェン(APAP)を用いた。CMCとMEGをモル比1:2で精製水15 mLに溶かした溶液を減圧乾燥させることでCMC-MEG粒子を作製した。CMC-MEG粒子は固体成分濃度ごとに34.0 mg/mL、57.3 mg/mL、86.0 mg/mL、113.3 mg/mLの4種類を作製した。APAPとCMC-MEG粒子を混合し、CMC-MEG粒子の比率を25%、50%、75%、100%とした際の苦味マスキング効果を評価した。評価方法は簡易的な溶出試験においてAPAP苦味閾値1.08w/v%を下回るか否かで判断した。また、電子顕微鏡(SEM)及びX線CT撮影にてCMC-MEG粒子の形状を評価した。 簡易的な溶出試験の結果、水に対する固体成分濃度が少ないCMC-MEG粒子においてマスキング効果が高くなる傾向が見られた。APAP苦味閾値を下回ったのは固体成分濃度34.0 mg/mLのCMC-MEG粒子をAPAPに対して100%、75%加えた場合(100%: 0.80 mg/mL、75%: 0.86 mg/mL)、57.3 mg/mLのCMC-MEG粒子をAPAPに対して100%加えた場合(0.86 mg/mL)、86.0 mg/mLのCMC-MEG粒子をAPAPに対して100%、75%加えた場合(100%: 1.03 mg/mL、75%: 0.92 mg/mL)となった。SEM及びX線CT撮影により多孔質な粒子となる傾向があった。水に対する固体成分濃度が少ないことで表面積の少ない多孔質な粒子ができ、APAPの溶出を抑制できたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CMCとMEGを用いて、口腔内を想定した溶出試験においてAPAPの溶出を抑制できるCMC-MEG粒子の調製に成功した。本年度はさらにAPAPの溶出は①APAPに対するCMCの量②CMC-MEG粒子調製時の固形成分濃度の影響を受けていると示唆されたため、これらの影響を調べた。 SEM撮影、粒度分布X線CTの結果より、CMC-MEG粒子が多孔質な粒子であることが明らかになった。IRの結果より、CMCとMEGの塩形成が示唆された。固体成分濃度が小さいCMC-MEG粒子ほど多孔質な粒子となり、高いマスキング効果を発揮した。多孔質な粒子は比表面積が大きいためJP2との接触面積が大きくなり、粒子の膨潤が速やかに進むと考えられる。膨潤したCMC-MEG粒子がAPAP粒子を包み、JP2との接触面積を減少させることで、口腔内でのAPAP溶出を抑制可能であると考えられた。CMC-MEG粒子とAPAPの混合粒子の60分までの溶出はAPAPの溶出と類似していたため、CMC-MEG粒子はAPAPの薬効や薬物動態に影響を与えない可能性が考えられる。 本年度は以上のように様々な分析法を用いてメカニズムの解明を行った。進捗状況は概ね順調であり、粒子の多孔質性が放出制御機構において重要である可能性がある。今後は粒子形状にも注目して検討を行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
調製したCMC-MEG粒子とAPAPの混合物とAPAPの溶出試験の結果を比較した。15, 30, 45分の3点の平均溶出率を比較したf2関数の値は67.4となった。生物学的同等性試験ガイドラインに従うと、f2値が50以上の場合溶出挙動は類似していると考えられるため、APAPの溶出挙動とAPAPとCMC-MEG粒子の混合物の溶出挙動は類似していると考えられた。以上の結果より、溶出挙動が類似していたためCMC-MEG粒子はAPAPの薬効や薬物動態にほとんど影響を与えない可能性が考えられた。 次にCMC-MEG粒子とAPAPを含むモデルOD錠の溶出試験の結果を比較した。60分経過した時点におけるCMC-MEG錠の溶出率は28.4%となり、APAP錠と比べて明らかに低いことが示された。15, 30, 45分の3点の平均溶出率より算出したf2関数の値は3.5となり、APAP錠とCMC-MEG錠の溶出挙動に類似性は見られなかった。60分後の錠剤の様子を比較すると、APAP錠は完全に崩壊していたがCMC-MEG錠はほとんど崩壊しておらず錠剤としての形を保っていた。CMC-MEG錠の崩壊遅延が起きた原因として、CMCの膨潤性により錠剤表面に膜が形成され、JP2の浸透が阻害されたことが考えられる。 このようにCMC-MEG粒子は粉末の状態であれば問題ないが錠剤中に入れると膨潤し、ゲルを形成することで錠剤の崩壊を困難にしてしまう。これを解消するにはCMCの含有量を減少させることが有効だが、少なすぎればAPAPは溶出し、苦味を呈してしまう。CMC量が少ない場合でも苦味マスキングを達成できるように工夫する必要がある、具体的にはCMCナノファイバーを用いる等してゲル強度を変更する方法が考えられる。次年度はこのようにCMC自体を異なるタイプへ変更し、検討したい。
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