2020 Fiscal Year Research-status Report
多発性骨髄腫の病勢指標であるMタンパクに着目した抗体医薬3種の薬物動態解析
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20K16074
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
志田 拓顕 浜松医科大学, 医学部附属病院, 薬剤師 (40857322)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 多発性骨髄腫 / 抗体医薬 / 薬物動態 / LC-MS/MS |
Outline of Annual Research Achievements |
多発性骨髄腫の治療薬として、近年、抗体医薬が登場し、大きな役割を担っている。抗体医薬は従来型の低分子薬とは全く異なる薬物動態学的特徴をもつため、その評価には新たなアプローチが必要である。とりわけ内在性IgGが大きく変動する多発性骨髄腫においては、抗体医薬の薬物動態が大きく影響を受ける可能性がある。そこで本研究では、まず多発性骨髄腫に用いられる抗体医薬の新規測定法を開発し、次いで薬物動態の個人間差・個人内差を明らかにすることを目的としている。 初年度においては、主に測定法の開発に取り組んだ。申請者が過去に開発したLC-MS/MSによるデノスマブの血中濃度測定法に準じて、多発性骨髄腫治療薬の同時測定法を開発し、各種測定条件を決定した。すなわち、抗体医薬由来のペプチド同定、血清からの抗体抽出条件の決定、LC-MS/MS条件の決定などを行った。以上より、測定系の開発はおおむね完了している。本測定法は、抗体医薬の測定において広く用いられているELISA法の欠点(交叉反応性、測定キットによる結果のばらつき等)を克服できるものと期待される。 多発性骨髄腫に用いられる抗体医薬は、現在のところ臨床において血中濃度測定は行われておらず、投与量も患者や病勢によらず一定である。本研究により実際の臨床における抗体医薬の薬物動態が明らかになることで、患者ごと・投与ごとに個別化した抗体医薬の投与が可能となることが期待される。ひいては、投与量の最適化による臨床効果の改善や医療費の削減につながることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、多発性骨髄腫に用いられる抗体医薬のLC-MS/MSによる測定法を開発し、これを用いて臨床検体における抗体医薬の動態の個人差要因を解明することを目的としている。 研究初年度は主に測定法の確立に取り組んだ。まず、抗体医薬の高精度LC-MS/MSによる分析を行い、分析に用いるペプチドの候補を複数見出した。薬剤ごとにそれぞれ3種類のペプチドを合成し、分析条件を最適化した。その中で最も測定に適したものをそれぞれ1種類ずつ同定した。本研究の測定対象である抗体医薬3種類すべてにおいて、測定に用いるペプチドが決定された。 次いで、ペプチドのLC-MS/MSによる測定の条件検討を行った。全てのペプチドを感度良く測定可能なHPLC条件およびMS条件を決定した。 さらに、抗体医薬の抽出やペプチド断片化に関する条件検討を行った。ここで、抽出効率がサンプルによって大きくばらつくという問題が生じた。これは多発性骨髄腫患者の血清に含まれるIgG濃度がサンプルによって大きく異なることが原因だと考えられた。この問題を解決するため、関連文献を参照し、サンプルに内部標準物質として抗体医薬を添加するという修正を加えた。これにより抽出効率のばらつきは補正され、サンプル中のIgG濃度によらず安定した結果を得ることができるようになった。 以上より、測定系の条件検討は完了した。現在は測定法のバリデーションを行っているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
抗体医薬測定法の開発について、条件検討は終了しており、今後は米国FDAのガイダンスに基づいたバリデーションを行っていく。バリデーションが終了し次第、測定法について論文発表することを目指す。 測定法が確立できる目途が立ったため、並行して患者検体の収集を用いた検討を開始する予定である。すなわち、当初の計画に記した通り、抗体医薬の投与を受けている多発性骨髄腫患者の血清を収集し、上述の測定法を用いて抗体医薬濃度を測定し、薬物動態学的な解析を行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、当初請求していた物品費等のうち、バリデーションに使用予定であった多発性骨髄腫患者由来血清の購入を行っていないことによるものが大きい。これは、初年度に測定法の修正を行ったためバリデーションまで至らなかったためであるが、進捗の遅れは軽微であり、バリデーションを実施中であるため、次年度早々に当該試薬を購入する予定である。 また、新型コロナウイルスに関連して海外学会への参加を見送った関係で、算定していた旅費が支出されなかったことも次年度使用額が生じた要因である。 一方で、測定法の修正にともない、当初は予定していなかった内部標準物質としての抗体医薬を使用する必要性が生じた。これに次年度使用額の一部を充てる予定である。
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