2020 Fiscal Year Research-status Report
理論的リバースジェネティクス法で迫る、HCNチャネルの新たな機能的構造の解明
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20K16125
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Research Institution | Kurume University |
Principal Investigator |
中島 明子 久留米大学, 医学部, 助教 (40867024)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | バイオインフォマティクス / オルソログ |
Outline of Annual Research Achievements |
ゲノム情報の多くがタンパク質発現に関わるとされるが、遺伝の青写真であるDNA塩基配列の変異情報のみから、タンパク質の生理機能や、変異によって異常が生じるメカニズムを特定することは難しい。もし、タンパク質を構成するアミノ酸のうち、重要な残基をあらかじめ特定する手法があれば、変異導入によりタンパク質の表現型解析を行うリバースジェネティクス研究が容易に行える。本研究では、データバンクに蓄積されている多様な生物ゲノム情報に視点を移して、進化の過程でタンパク質の機能に重要なアミノ酸残基は種を超えて保存される異種間の相同遺伝子(オルソログ)に着目することで、アミノ酸残基の変異の起こりにくさをパラメータ化するアルゴリズムを構築した。理論予測に基づいた変異を心臓ペースメーカーチャネル遺伝子に適応したところ、HCNチャネルのポア領域にはこれまで知られたGYGモチーフとは異なる特異的な配列が存在することが判明した。さらにカルシウム感受性電位依存性カリウムチャネルとの相同解析によって、数か所のアミノ酸残基が特に種間変異頻度が極めて低い(相関が高い)ことが分かった。研究遂行中であったが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が世界的に蔓延を始め多くの業務の変更が余儀なくされた。 そこで、SARS-CoV-2ウイルスゲノムを用いて、本研究で考案したアルゴリズムを適用してウイルス種内でのオルソログ解析を行った。それによって感染の初期段階においてD614G変異体の発見に成功した。さらにゲノムの採取場所情報を組み合わせることで、ウイルスの蔓延速度などが解析できることが分かった。これによってオルソログ解析は、実際に進化を続けるDNAの特徴を捉えることが可能であると実証された(Akiko Nakashima. Informatics in Medicine Unlocked, 2020)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究でターゲットとするHCNチャネルのポア領域には、カリウムチャネルと相同のGYG配列が存在することが知られていたが、どうしてナトリウムの透過性があるのか謎であった。本研究ではカルシウム感受性電位依存性カリウム(BK)チャネルとの相同解析によって、数か所のアミノ酸残基が特にHCNとBKの間で異なるアミノ酸配列を抽出することができた。実証実験に入る前に、本研究提案に用いる概念をSARS-CoV-2ウイルスという現実社会で進化を続けるDNA媒体に応用したところ、通常のランダム変異とは異なる特異な変異(コンバージョン)を抽出することに成功した。本研究の方法論の実証が出来たことにより、さらに実験応用の可能性が広がったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、方法論の詳細についての学術報告を行う。さらに実際に、抽出したアミノ酸配列に変異を導入したHCNチャネルcDNAをHEK293T細胞にトランスフェクションをしたうえで電位固定法を実施し、電流の反転電位を測定することでNa/K透過度を決定する。さらに逆向きの変異をカルシウム感受性電位依存性カリウム(BK)チャネルに適用することで、カリウム選択性が崩れてナトリウム透過度が上昇するか、検証を行う。 それらの結果によって、とくにNa透過度が低下したHCNチャネルコンストラクトをTet応答配列下に組み込んだトランスジェニックマウスを作成する。それと、HCN4プロモータ下流にTetトランスアクチベータを発現するマウスを掛け合わせることで、HCN4発現領域でヘテロマーを形成させる。その結果、Na透過性を下げた変異HCN4をもつマウスのフェノタイプ解析およびスライスパッチクランプによる細胞特性の解明に挑む。
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Causes of Carryover |
【理由】当該年度は、新型コロナ感染症の蔓延による種々の制限の下、分子生物学実験とシミュレーションを主として研究を遂行した。そのため電気生理学および動物実験費用を先送りすることになった。必要な消耗品や器具の費用等が予定使用額との差額として生じた。 【使用計画】今年度は、遺伝子の構築など分子生物学実験が終わり次第、動物での実験に移る。そのため、前年度からの繰越分は、予定されていた実験計画に基づき使用する。
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Research Products
(3 results)