2020 Fiscal Year Research-status Report
PACAP-PAC1シグナルはオキサリプラチン誘発末梢神経障害発症に関与するか?
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20K16134
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
齊藤 弘樹 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 客員研究員 (80747478)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド / PACAP / PAC1受容体 / PAC1受容体拮抗薬 / 非ペプチド性拮抗薬 / 化学療法誘発性末梢神経障害 / オキサリプラチン / 冷アロディニア |
Outline of Annual Research Achievements |
がん化学療法使用に伴う末梢神経障害は高頻度に発現する副作用であり、例えばオキサリプラチン(OXA:大腸がん治療の主力抗がん剤)は、投与直後から90%以上の患者に冷刺激誘発疼痛を生じることで有名である。また、OXA投与回数増加に伴い末梢神経障害は慢性化し、重症例では回復困難な末梢神経障害に至ることで日常生活に困難をきたすため、減量やOXA投与中止を余儀なくされることも多く、がん患者の生命予後悪化につながる。しかし、現在まで有効な治療・予防法は確立されていない。 所属研究室では、PACAP(pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide)はその特異的受容体PAC1を介して脊髄アストロサイトの長期活性化を引き起こし、疼痛慢性化をもたらすことを見出した。さらに、インシリコスクリーニング法により複数の新規有機小分子PAC1受容体拮抗薬創製に成功し、これら新規PAC1受容体拮抗薬は、OXA誘発急性末梢神経障害を含む複数のマウス末梢神経障害性疼痛に有効であることを確認している。 そこで今年度は、OXA誘発慢性末梢神経障害モデルマウス作製を検討し、新規PAC1受容体拮抗薬の効果を検討した。すなわち、OXA(2~8 mg/kgを1~2回/週投与、数週間以上継続)を正常マウスに腹腔内投与し、アセトンテストとコールドプレートテストにより冷刺激誘発疼痛様行動を評価した。その結果、OXA誘発疼痛様行動は両テストで評価可能であるが、コールドプレートテストの方が疼痛様行動および薬効をより明確に評価可能であること、PAC1受容体拮抗薬は薬効の耐性をもたらさず、むしろ投与回数増加に伴い薬効も強くなることが示唆された。末梢神経の組織学的検討では、OXA連投による明確な異常は検出できておらず、現在感覚神経細胞体も含め、より詳細な組織学的検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アセトンテストを補完しうる冷刺激誘発疼痛行動評価試験としてコールドプレート法を検討した結果、冷刺激誘発疼痛およびPAC1受容体拮抗薬の薬効を、アセトンテストと比較してより明確に評価しうることが分かった。また、末梢神経の組織学的検討が軌道に乗り、アストロサイト特異的PAC1受容体ノックアウトマウス作製にも成功したことから、本研究計画の実験ツールを充実させることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
冷刺激誘発疼痛評価試験としてアセトンテストとコールドプレートテストを併用することで、また野生型マウス (有機小分子PAC1受容体拮抗薬の薬効評価を含む)、PACAP遺伝子欠損マウス、PAC1受容体欠損 (神経、アストロサイト特異的) マウス、さらには非ヒト霊長類コモンマーモセットを用いて作製したOXA誘発末梢神経障害モデルをより正確に評価することで、本末梢神経障害性疼痛におけるPACAP-PAC1受容体シグナルの重要性をさらに詳細に検討する。今後は特に慢性の末梢神経障害に対するPACAP-PAC1受容体シグナルの寄与を重点的に評価することで、PAC1受容体拮抗薬の臨床的有用性、すなわち急性・慢性末梢神経障害を抑制することによって抗がん剤OXAの用量制限毒性を緩和し、より強力ながん化学療法を行うことでがん患者の延命に寄与することが可能か否か、そしてさらなる新規創薬ターゲットを見つけることが可能か否か、検証する。
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