2020 Fiscal Year Research-status Report
新規培養モデルを用いたがん悪液質におけるアストロサイトの活性化機構の解明
Project/Area Number |
20K16139
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
宇津 美秋 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 研究員 (20802896)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | コラーゲンビトリゲル膜 / ヒト微小血管内皮細胞 / 血管透過性 / アストロサイト |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、コラーゲンビトリゲル膜(CVM)チャンバーを用いて「ヒト微小血管内皮培養モデル」、およびヒト初代培養アストロサイトとヒト微小血管内皮細胞を共培養した「ヒト血液脳関門モデル」の構築を行った。 まず、ヒト包皮由来微小血管内皮細胞(HMVEC)と同由来線維芽細胞(HDF)をCVMを介して共培養することにより、内皮バリア機能が高くヒスタミン応答性に優れた微小血管内皮培養モデルの構築に成功した。本モデルにヒスタミンを曝露し、分子量376、4,000、40,000のモデル薬剤の微小血管透過性を評価したところ、分子量4,000のモデル薬剤の透過性が選択的に亢進した(Uzu&Takezawa, 2020)。また、HMVECの単独培養系にHDFの馴化培養液を加えることで、HMVECとHDFの共培養系の約70%の内皮バリア機能を示すことを明らかにした。 HMVECは数回しか分裂できずロット間差があることから、アストロサイトとの共培養モデルにはヒト大脳由来微小血管内皮細胞株のhCMEC/D3を使用することとした。本細胞の親株(Merck Millipore社より購入)は内皮細胞様形態と線維芽細胞様形態の細胞が混在した不均一な細胞集団であり、ほとんど内皮バリア機能を示さなかった。そこで、内皮細胞様形態を示すクローン細胞株を選別したところ、ある程度の内皮バリア機能を示し、ヒスタミンおよびヒスタミン阻害薬に対し良好に応答した。本クローン細胞株の内皮バリア機能および増殖性は細胞が約30回分裂しても維持されていたことから、本クローン細胞株を用いた培養モデルは再現性の良いアッセイ結果が得られると期待される。以上の成果は原著論文として投稿する準備を進めている。 また、hCMEC/D3由来クローン細胞株とアストロサイトをCVMを介して共培養し、両細胞が長期間良好な形態を示す培養条件を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2020年度に計画していた検討内容はヒト血液脳関門モデルの構築である。血液脳関門モデルを構成するヒト微小血管内皮細胞とアストロサイトのうち、前者については2種類の細胞を用いて炎症応答性に優れた培養モデルを構築することができた。2021年度はがん悪液質と関連のあるサイトカインを用いることでがん悪液質モデルを構築する予定であることから、本成果は本課題を推進する上で非常に重要である。また、2020年度の検討により、ヒスタミンによって中分子の微小血管透過性が選択的に亢進する可能性を見出した。炎症に関連する中分子としてはケモカインが挙げられる。以上より、「がん悪液質では、サイトカインによってケモカインの脳微小血管透過性が選択的に亢進し、アストロサイトを活性化している」という仮説を立てることができた。このように、全く新しいがん悪液質におけるアストロサイトの活性化機構を予想するに至るデータを得ることができたことから、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、【現在までの進捗状況】で述べたように、がん悪液質と関連の知られているサイトカイン(LIF、IL-6、IL-8)をhCMEC/D3由来クローン細胞株の微小血管内皮培養モデルに曝露することで、分子量選択的な微小血管透過性の亢進を認めるか、モデル薬剤を用いて検討する。分子量選性を認めた場合には、その分子量に相当する炎症誘発物質(ケモカインなど)の透過性が亢進するかELISA法などにより検討する。ケモカインなどの微小血管透過性が亢進することが見出された場合には、続いてhCMEC/D3由来クローン細胞株とアストロサイトの共培養系においてhCMEC/D3由来クローン細胞株を培養している側(脳微小血管の内腔側)にLIF、IL-6、IL-8とケモカインなどを同時に添加し、アストロサイトが活性化するか評価する。また、サイトカインに曝露された微小血管内皮細胞自身がパラクライン因子を介してアストロサイトを活性化する可能性も考えられることから、サイトカインを曝露したhCMEC/D3由来クローン細胞株の馴化培養液をアストロサイトの単独培養系に添加することで、アストロサイトが活性化するか評価する。以上の検討より、がん悪液質におけるアストロサイトの活性化機構を明らかにする。
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Causes of Carryover |
本研究に使用するヒト微小血管内皮細胞について、hCMEC/D3細胞で検討が困難な場合には、iPS細胞や間葉系幹細胞から血管内皮細胞を分化誘導し使用する予定であった。hCMEC/D3細胞で検討可能であることを確認したことから、iPS細胞や間葉系幹細胞、これらの細胞を血管内皮細胞へ分化誘導するための試薬の購入が不要となった。また新型コロナ感染症の蔓延により、参加した全ての学会がオンライン開催であったため、旅費の支出がなかった。以上の理由により、次年度使用額が生じた。 本経費については、当初の計画では予定していなかったケモカイン等の脳微小血管透過性を評価するためのELISAキットの購入に使用する。
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