2020 Fiscal Year Research-status Report
各種Tauopathyにおいて特異的な凝集体を形成するtau単位配列の役割解明
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20K16160
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
下中 翔太郎 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 博士研究員 (90778747)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | Tau / Tauopathy / Alzheimer病 / Tau strain / タンパク凝集 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、Alzheimer病等のtauopathyにおいて異常凝集を示すtauタンパクのC末端側配列353-368が、凝集の際に鋳型となる凝集tau seedの種類の「識別」に働く機序の解明を目的とする。本年度はまず、この配列が識別に働くのに必須であるアミノ酸残基の特定を試みた。 353-368中の短い配列をAlaに置換、または部分欠損させた変異体の作成と、AD tau-seedを鋳型とした凝集が起こらなくなる変異体の特定を繰り返しながら配列を狭めていった。結果として、Asn-368の欠損およびAla置換は、その単一の変異のみでAD-seedを鋳型とする凝集を低下させることが明らかになった。この部位を欠損やAla変異ではなく、Asn側鎖と似た炭素骨格を持つAsp、Gln、Leuへと置換した変異体についてもAD-seedと反応させたが、同様にAD-seedでは凝集しないという結果が得られた。これらの結果は他症例のAD seedを用いた場合でも再現でき、CBD3症例、PSP3症例およびN279Kといった他のtauopahty症例seedを用いた場合には、ADとは異なり凝集の低下は観察されなかった。以上のことから、Asn-368をAD typeのtau seedingに必要な部位として同定した。 さらに、近年提出されたAD-tauのCryo-EM構造において、Asn-368は対側のpeptide鎖上のSer-320と向かい合う形で近接している。このSer-320をAlaに置換することにより、Asn-368の変異同様にAD-tau凝集核との反応性が選択的に減少し、Asn-368とSer-320はAD-typeのtau凝集において協働して特有の構造形成に寄与していることが示唆された。 以上の結果はThe Journal of Biological Chemistry誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時点で計画していた、tauの353-368配列中のAD凝集に寄与する部位の絞り込みを予定通り、20年度内に達成することができた。これにより、同定された部位の他アミノ酸への置換効果の確認という、21年度以降に計画していた実験を前倒しして行い、1)同定されたAsn368はAsp、Gln、Leuといった類似した炭素骨格の側鎖を持つアミノ酸への置換でもAD凝集を低下させた 2)AD tauのCryo-EM構造においてAsn368と向かい合うSer320の変異でも、AD凝集が低下した、といった知見を得ることができた。ここまでの結果をまとめたものが、20年度にThe Journal of Biological Chemistry誌に掲載された。よって、本研究の細胞モデルを用いた解析においては、当初の予定よりも早く進行していると言える。 一方、絞り込み部位に対応したPeptideやそこを認識する抗体の作出に関しても行ったものの、細胞モデルに置いてtau凝集を抑制する効果は見られず、目標であったAD凝集阻害薬としての機能の確認には至らなかった。 Tauopathy疾患モデルの条件検討においても、海馬及び皮質にtauopathy患者脳不溶性画分をinjectionする条件では、3ヵ月時点での顕著な病理発現は見られておらず、injection部位の変更などの、前提条件の変更が必要となっている。 以上のことから、細胞モデル解析に限っては「当初の計画以上に進展している」と言えるものの、その知見に基づいた凝集阻害実験および動物モデルの為の条件検討については遅れており、総合して「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞モデルを用いた実験において、AD-tau特異的に凝集を抑制する部位を探索する過程で、CBDおよびPSP-tauに対して特異性を持つ部位があると考えられる配列を発見している。当初の研究計画には記載していなかったが、20年度に蓄積した方法論を生かして、これらの4R tauopathyのstrain形成に関わる部位の同定も目指す形で、研究を発展させていく。 Peptide、抗体を用いた凝集阻害実験に関しては、有意な差は見られなかったものの若干の凝集阻害傾向が見られたpeptideについて、投与濃度の再検討や、変異を入れたpeptideを用いるといった改善策を検討している。 動物モデルの条件検討に関しては、海馬・皮質ではなく、線条体への投与を検討している。線条体でのAD-tauの病理発現は、実際のAD病理と乖離している側面もあるが、とにかくより早く、より強い病理がでる条件を検討する方向にシフトする。 加えて、20年度に同定されたAsn368に変異を持つゲノム編集マウスのデザインを進めており、マウスモデルの条件検討の間に作出の工程を進める予定である。
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Causes of Carryover |
当初の予定よりも細胞モデルを用いたAD-tau凝集責任部位の同定が速やかに完了したので、AD seedを細胞内に導入するためのMultifectam等の高価な試薬の消費量が見込みよりも少なかったため。翌年度分として請求したものと合わせ、当初の予定に加えて、変異入りpeptideの合成委託費などに回す予定である。
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