2020 Fiscal Year Research-status Report
A群レンサ球菌の細胞外脱出に関するメカニズムと生物学的意義の解明
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20K16241
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
野澤 敦子 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (60824159)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | A群レンサ球菌 / ストレプトリジンO / NADグリコヒドラーゼ / カルシウム |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、A群レンサ球菌(group A streptococcus: GAS)は細胞内に侵入後、膜輸送系であるリサイクリングエンドソームを介して細胞外脱出することが明らかになっていたので、GASの細胞外脱出に関与する菌側の因子についての同定と機能解析を行った。 まず、菌側の因子についてはGASが分泌する溶血毒素であるストレプトリジンO(SLO)が GASの細胞内脱出に必須であることが明らかになっていたので、SLOと相互作用し、病原性との関連も示唆されている菌側の因子NADグリコヒドラーゼ(Nga)についても解析を行った。その結果、NgaもGASの細胞外脱出に関与することが明らかになった。 次に、SLOとNgaがリサイクエンドソームを介した細胞外脱出にどこの段階で関与するのかを調べるために、SLOまたはNgaが欠損したGASの感染細胞においてリサイクリングエンドソームのマーカーであるRab11Aの局在を共焦点顕微鏡で観察をしたところ、GASを含んだリサイクリングエンドソームが細胞内で多く蓄積しているのが観察された。つまりSLOとNgaはGASを含んだリサイクリングエンドソームの形成を阻害するのではなく、リサイクリングエンドソームの中に含まれるGASを細胞外に放出(エキソサイトーシス)するのを阻害することが明らかになった。 エキソサイトーシスは細胞内の二次メッセンジャーとして知られるカルシウム(Ca2+)に依存的なものと非依存的なものに分類される。また、SLOはGAS感染細胞において細胞内のCa2+濃度を上昇させることがすでに報告されていることから、Ca2+に着目して解析を行った。その結果、SLOだけでなくNgaにも細胞内Ca2+濃度を上昇させる作用があることを新たに見出し、さらには、GASの細胞外脱出はCa2+依存的であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、i)細胞外脱出に関わる宿主細胞因子、ii)菌側の因子、iii)その生物学的意義、を明らかにすることを目的といている。当該年度では、細胞外脱出に関わる菌側の因子について新たにNADグリコヒドラーゼ(Nga)を新たに発見し、SLOとNgaが感染細胞内のCa2+濃度を上昇させることでGASの細胞外脱出を促進させることを明らかにしてきた。また、細胞外脱出に関わる宿主細胞因子についてもすでに解析を行っており、リサイクリングエンドソームを介した細胞外脱出は宿主細胞内の膜輸送を司る制御分子であるRabGAP1Lが関与することが明らかになっていることから、質量分析によりRabGAP1Lと相互作用する候補分子の同定をすでに行っており、今後解析を行う予定である。今回の結果は、GASの「細胞外脱出」という新概念を介したGASの病態発症機序の解明に繋がり得る知見であり、学術的な観点だけでなく、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の治療法開発やワクチン開発に発展する臨床応用に向けた観点からも重要な知見であると考えられる。以上のことを踏まえ、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度はA群レンサ球菌(group A streptococcus: GAS)のリサイクリングエンドソームを介した細胞外脱出に関して、主に菌側の因子についての同定と機能解析を行い、SLOとNgaが感染細胞内のCa2+濃度を上昇させることでGASの細胞外脱出を促進させることを明らかにしてきた。また、質量分析によりRabGAP1Lと相互作用する候補分子の同定をすでに行っており、今後はこの候補分子について主に解析を行っていく予定である。具体的には、この候補分子とRabGAP1Lの相互作用は免疫沈降で確認を行い、同定された相互作用因子に関しては、ノックアウト細胞やノックダウン細胞を作製してその機能解析を行う。さらに、GASの細胞外脱出の生物学的意義を調べるために、上記で同定された宿主細胞因子をノックアウトした培養細胞やオルガノイドを用いて細胞間移動や細胞間隙を介した感染拡大に関与するのかを調べる。具体的にはタイムラプスイメージングによる直接的観察や組織切片を観察することで行う。さらに、ノックアウトマウスモデルやSLOまたはNga欠損株のマウス感染モデルを用いた病原性解析を行う予定である。
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Research Products
(1 results)