2020 Fiscal Year Research-status Report
アドレノメデュリンーRAMP2、3系による癌転移制御機構の解明と応用展開
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20K16299
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
田中 愛 信州大学, 医学部, 研究員 (90786401)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アドレノメデュリン / 癌転移 / 血管恒常性 / 転移前土壌 / エクソソーム |
Outline of Annual Research Achievements |
癌転移抑制のためには、癌を生体から切り離すのではなく、循環制御の観点から捉えることで新規治療法に繋がるのではないかと考えた。本研究では、血管の恒常性維持に働くアドレノメデュリン(AM)-RAMP系が癌転移を抑制する可能性を考えた。AMと、その受容体活性調節タンパクRAMP2を癌転移抑制法開発の標的として応用展開するため、成体になってから遺伝子欠損が可能な、誘導型血管内皮細胞特異的 RAMP2 ノックアウトマウス (DI-E-RAMP2-/-)を樹立した。 ルイス肺癌細胞 (LLC) を足底部に移植すると、DI-E-RAMP2-/-ではリンパ節内に存在する高内皮細静脈(HEV)の破綻により、リンパ節転移が促進した。RAMP2欠損誘導後の血管内皮細胞の変化を電顕で観察すると、内皮細胞表面に無数の微小突起や細胞外小胞(エクソソーム)が確認された。そこで、炎症誘発性サイトカインであるTNF-αを用いて、血管内皮細胞の刺激実験を行った。フローサイトメーターで解析を行うと、DI-E-RAMP2-/-由来内皮細胞ではControlと比べて、有意にエクソソーム分泌量が増加していた。そこで、初代培養内皮細胞からエクソソームを回収し、LLCに投与した。DI-E-RAMP2-/-由来エクソソームで刺激したLLCは形態変化が生じ、通常よりも細長い、悪性化した形態を取った。さらに、LLCのスクラッチアッセイを行い、Control、DI-E-RAMP2-/-由来のエクソソームを培養液に加えると、DI-E-RAMP2-/-由来エクソソームは、LLCの遊走能を有意に亢進させ、より悪性度の高い癌細胞へと変化させたと考えられた。 以上の結果から、血管のRAMP2が欠損することにより、癌細胞や炎症細胞が接着しやすい血管となると同時に、エクソソームによる制御を介して、癌転移に促進的に働くことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
RAMP2のノックアウトマウスは胎生致死となるため、誘導型血管内皮細胞特異的 RAMP2 ノックアウトマウス (DI-E-RAMP2-/-)を樹立し、AM-RAMP2 系の成体での病態生理学的意義を検討することを可能とした。今までの検討から、DI-E-RAMP2-/-では、転移先となる組織において、癌転移が生じる前に、癌細胞が生着しやすい環境、すなわち「転移前土壌」が形成されることを報告した。そこで、DI-E-RAMP2-/-の血管内皮細胞について、さらに詳細な解析を進めた。DI-E-RAMP2-/-の血管内皮細胞を電顕で観察すると、内弾性板の消失、内皮細胞の空砲化、さらには多数のエクソソームの形成が認められた。これらの所見から、血管内皮細胞の形態変化やエクソソーム産生が、癌細胞や炎症細胞の血管への接着に関わっているのではないかと考えた。DI-E-RAMP2-/-から初代培養した血管内皮細胞をTNF-α刺激し、電顕で観察を行うと、細胞表面上に無数の微小突起が確認された。そこで、血管内皮細胞をPKH26で蛍光標識し、TNF-αで刺激後、FACSで解析を行ったところ、DI-E-RAMP2-/-では、PKH26陽性内皮細胞由来エクソソームが、Controlに比較して有意に増加することが確認された。そこで、Control、DI-E-RAMP2-/-から血管内皮細胞由来エクソソームのみを抽出し、マイクロアレイを行った。その結果、DI-E-RAMP2-/-ではControlと比較し、癌増殖や転移に関わるmiRNAの発現変化が認められた。 一方で、癌細胞をDI-E-RAMP2-/-内皮由来エクソソームで刺激すると、癌細胞の形態が変化した。これらの結果から、RAMP2欠損によって生じる様々な変化が血管内皮細胞だけでなく、癌細胞自体にも影響を及ぼし、悪性度を亢進させる可能性が考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
癌のリンパ節転移を考えてみると、局所で増殖した癌細胞は、全身に張り巡らされたリンパ管を通してリンパ節へ流入する。最終的に胸管を介して血液とつながり、癌細胞は血管内に侵入すると考えられてきた。しかし、ごく最近、リンパ節転移は血管を介した血行性転移によるものと報告された(Brown M et al. Science.2018)。本研究では、AM-RAMP2系の持つ血管恒常性維持機構の制御によって、リンパ節転移を抑制する新規癌治療法への展開を目指す。昨年度までの検討で、ルイス肺癌細胞を用いてリンパ節への転移モデルを作成したところ、DI-E-RAMP2-/-では、リンパ節転移が亢進する結果が得られた。また、DI-E-RAMP2-/-ではリンパ節内の血管構造にも異常を認めた。一方、RAMP3-/-では、リンパ節転移が抑制されていた。今後は、血管およびリンパ管特異的RAMP2-/-、RAMP3-/-の比較検討により、リンパ節転移におけるAM-RAMP2、3系の意義を様々な側面から解明する。また、リンパ節内血管である高内皮細静脈(HEV)に着目し、その構造解析やリンパ節転移に対するメカニズムの解明を行う。癌転移後のリンパ節のHEVと癌細胞を描出し、3D構築し、血管と、癌細胞との位置関係や相互作用を解析する。一方、血管内皮細胞由来エクソソームのアレイ結果から、RAMP2欠損によってmiR29が有意に低下していた。miR29はヒトの癌細胞において、アポトーシス誘導、転移抑制に関わることが報告されている。DI-E-RAMP2-/-内皮細胞の初代培養を行い、エクソソーム分泌阻害実験を行う。エクソソームが癌細胞に与える影響について、形態変化、増殖をタイムラプス解析によって評価する。以上の検討から、AM-RAMP系の制御による癌転移抑制薬への応用に展開する予定である。
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