2020 Fiscal Year Research-status Report
新規がん遺伝子G9aによる腫瘍免疫制御機構の解明と治療標的としての応用
Project/Area Number |
20K16301
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
加藤 真一郎 名古屋大学, 医学系研究科, 特任助教 (40751417)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | エピジェネティクス / ヒストン修飾 / G9a / 免疫チェックポイント阻害剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ヒストンメチル化酵素G9aが腫瘍免疫応答に及ぼす影響を明らかにするために、in vivo実験に供する細胞モデルの樹立を実施した。まず、マウスがん細胞株におけるG9aのタンパク質レベルでの発現量と免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1及び抗PD-L1抗体)に対する感受性の相関性のデータを取得し、G9a/Ehmt2のノックアウトに適した細胞株の選定を行った。これまでに明らかにしてきた臨床データと一致して、G9aの高発現と免疫チェックポイント阻害剤への低感受性には有意な相関性を確認することが出来たため、G9a発現レベルが高く、かつ免疫チェックポイント阻害剤に対して感受性が低い細胞株を4種類選定し、これら細胞株を対象としてCRISPR/Cas9によるG9aノックアウト実験を遂行した。G9aに対する異なる2つのsgRNAを用いることで、G9aノックアウトと共にH3K9me1/2の低下を認めたことから、G9aノックアウトによる実験系の構築に加えて、G9aがこれら細胞株でメチル化酵素として機能することを明らかに出来たと考える。さらに、これらG9aノックアウト細胞株をG9a阻害剤UNC0642で処理してもH3K9me1/2レベルに相加的な抑制効果が認められないことから、G9aノックアウトによってG9aのメチル化酵素活性がほぼ完全に抑制されていることが示唆された。免疫チェックポイント阻害剤の感受性や耐性化に対するG9aの影響を明らかにするため、現在これらのG9aノックアウト細胞株を用いてin vivo実験系の構築と解析を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度当初の計画においては、in vivo実験に供する細胞モデルの樹立および抗PD-1抗体を用いたin vivo実験の実施を計画していたが、特にセルソーティングによるCas9発現細胞のシングルクローン化が難航したためin vivo実験開始時期に若干の遅れが発生している。しかしながらソーティング・培養条件を工夫することによって、最終的に4種類全てのG9a高発現・チェックポイント阻害剤非感受性細胞株において、SpCas9を導入したシングルクローンの樹立に成功した。さらに、pXPR_011を用いることで、CRISPR/Casによるゲノム編集効率が90%を超えるCas9高活性クローンを取得している。実際に、各細胞株のCas9高活性クローンにおいてG9aのノックアウトを実施し、ウェスタンブロットによってG9a及びH3K9me1/2/3の発現レベルの低下を明らかにしている。一方で、H3K9と同様に転写抑制に関わるヒストンマーク(e.g., H3K27me3)に対しては、G9aノックアウトの明らかな影響は認められなかったことから、G9aおよびG9aノックアウトの特異性を示唆している。さらに、in vivo実験系において使用を計画しているG9a阻害剤UNC0642に関して、G9aノックアウト細胞株を用いたin vitro実験系にて、UNC0642のG9a特異性・選択性についても評価を行った。G9a野生型細胞株では、UNC0642(0.5もしくは1 uM)によってH3K9me1/2の著しい低下を示したのに対して、G9aノックアウト細胞株ではUNC0642によるH3K9me1/2の相加的低下が認められなかったことから、低濃度UNC0642による選択的なG9a阻害効果を明らかにしている。以上のように、G9aノックアウト細胞の樹立とin vitroにおける評価を完了しつつある。
|
Strategy for Future Research Activity |
G9aのノックアウトによって、in vitroにおける短期間(最長72時間)の細胞増殖能に有意な変化が認められていないが、我々の予備データからG9a阻害によって免疫応答関連遺伝子群の発現レベルに変化が生じることが示唆されているため、マウス生体内においてはG9aノックアウト細胞の増殖能や免疫チェックポイント阻害剤への感受性の変化が予測される。したがって今後は、令和2年度に樹立したG9aノックアウト細胞やG9a阻害剤UNC0642を用いて、G9aの特異的阻害によるマウス生体内での腫瘍免疫応答の変化や抗PD-1抗体に対する治療応答性の変化について腫瘍免疫学的および分子生物学的な解析を進めていく。具体的には、G9a阻害と抗PD-1抗体の併用による腫瘍増殖能の変化と同時に、腫瘍内浸潤免疫細胞(特にCD8+ T細胞)の継時的な質的・量的変化を免疫染色によって捉えることで、G9aが腫瘍免疫系に及ぼす普遍的な作用を明らかにする。その上で、G9a阻害による腫瘍組織内のトランスクリプトームおよびエピジェネティックランドスケープの変化をバルク(RNA-seq、ATAC-seq、ChIP-seq)およびシングルセルレベル(RNA-seq)で明らかにすることで、がん細胞と免疫細胞(もしくはその他間質細胞)の両側面からG9aによる腫瘍免疫制御機構の分子基盤の解明を目指す。さらに、これらの実験的知見と臨床的描像との整合性を検証することで、G9aによる腫瘍免疫制御機構がもつ臨床的インパクトにも踏み込み、治療標的としての有用性についても議論を深める。
|