2020 Fiscal Year Research-status Report
ER陽性乳癌におけるプロリン異性化酵素の意義と治療標的としての可能性
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20K16333
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
羽原 誠 山口大学, 共同獣医学部, 助教(特命) (60846525)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | プロリン異性化酵素 / PPIase / 乳がん / ER陽性乳がん / ER / エストロゲン受容体 / 核内受容体 / ユビキチンリガーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は臨床がん患者のデータベースからエストロゲン受容体α(ERα)陽性乳がんの予後不良因子として、あるプロリン異性化酵素(Aとする)を同定した。Aはがん組織で増加し、がん組織にAが多いと患者の生存期間は短縮する。ERαは乳がん細胞の主要な増殖制御因子である。AのERα陽性乳がんにおける治療標的としての可能性を追求するため、ERαとの関係に着目しAによる乳がん悪性化のメカニズム解明を試みた。 乳がん細胞株を用いた実験により、AはERαと結合し、ERαタンパク質を安定化させることが明らかとなった。この結果と一致して、Aを阻害剤、遺伝子ノックダウンで抑制するとERαの活性が低下し、過剰発現させるとERαの活性が増加した。これらの影響は酵素活性またはERαとの結合能を欠失させた変異型Aでは認められなかった。 Aに類似したプロリン異性化酵素であるBについても同様の解析を行った。その結果、BはERαと結合するものの、ERαを不安定化させ、Aと逆の機能を有していることが明らかになった。乳がん細胞だけでなく、臨床がん患者においてもBの発現、予後のプロファイルはAと逆転していた。 AとBの逆転した作用のメカニズムを明らかにするため、ユビキチンリガーゼに注目した。ユビキチンリガーゼはタンパク質分解の主要な制御因子である。タンパク質結合のデータベースを用いてERαおよびAと結合し、かつBと結合しないユビキチンリガーゼを探索した結果、あるユビキチンリガーゼ(Cとする)を同定した。Cの遺伝子ノックダウンはERαを不安定化させ、CがERαの安定化に寄与していることが示唆された。 以上の結果からERαへのプロリン異性化酵素の結合がCとERαの結合を調節し、ERαの安定性を制御している可能性が示された。プロリン異性化酵素によるERαの制御はほとんど知られておらず、乳がんの新規治療法の開発に寄与するものとなり得る。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画どおり2020年度に機能ドメインの同定は完了し、結合ドメイン、酵素活性ドメインがERαの制御に必要であることがわかった。ERα制御のメカニズムについても、タンパク質相互作用、タンパク質発現、転写活性、mRNA発現、翻訳後修飾の状態など多面的に評価できている。様々なデータベースを活用した網羅的・統合的な解析でもこれらの実験結果を支持するデータが得られている。研究の過程で予定していなかった別分子にも着目したが、こちらも興味深い結果が得られている。 2021年度にはin vivo解析、クロマチン結合の網羅的解析、異性化酵素活性の測定、結合を阻害する低分子化合物の探索を予定している。in vivo解析、クロマチン結合の網羅的解析については、試薬や実験条件の検討や予備実験を行っており、近々本格的に開始する予定である。異性化酵素活性の測定については、当初計画していたペプチジルパラニトロアニリン融合ペプチドを用いた測定系を確立しており、標的となる基質ペプチドを合成すれば様々な標的の異性化が解析可能である。低分子化合物の探索についてもNanoBiT法を用いた分子間結合のハイスループットスクリーニング系を構築済みである。 現在これまでの研究成果をまとめて国際学術誌に投稿中であり、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今までの結果から、プロリン異性化酵素がERαの安定性の制御を介して、乳がん細胞株の増殖を制御している可能性が示された。そこで、当初の研究計画通りin vivo解析でも一致した結果が得られるかを確認する。そのため、xenograftの系を用いて腫瘍増殖、転移におけるプロリン異性化酵素の影響を評価する。 ERαは転写因子であるため、クロマチン結合状態の評価はERαの機能を理解する上で極めて重要である。クロマチン結合の網羅的解析ではERαやプロリン異性化酵素のクロマチン結合状態を評価し、プロリン異性化酵素の影響を評価する。 機能ドメインの同定によりERαとの結合および異性化酵素活性がERαの制御に重要であることが示された。そこで、ERαが実際に異性化されるかを異性化酵素活性の測定により検証する。さらにERαとの結合を阻害する低分子化合物をスクリーニングし、見出した化合物を用いてERαや細胞増殖への影響を検証する。 また、研究過程でERαの制御に関わる分子を2つ新たに見出した。当初着目していたプロリン異性化酵素と併せてこれら3分子のERα制御における関係性をタンパク質相互作用解析、ユビキチン化の解析等により詳細に検討していく予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により学会がオンライン開催になったため、旅費が発生しなかった。 また、実験の進捗状況により次世代シーケンス解析、プロテオーム解析を当該年度に行っていないため、その他に計上していた委託費用を使用しなかった。これらの解析は2021年度に行う予定であるため、その際に繰り越した助成金を使用する。
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Research Products
(1 results)