2020 Fiscal Year Research-status Report
細胞転換によるがん細胞の薬剤感受性化メカニズムの解析
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20K16339
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
加藤 優 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 助教 (80847864)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 上皮間様転換 / スフェロイド培養 / キナーゼ阻害剤 / エピジェネティック阻害剤 / 代謝阻害剤 / 大腸がん |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、細胞転換を起こしたがん細胞に効果の高い化合物を同定し、その感受性化機構を明らかにすることで、細胞転換特異的な薬剤による新規治療戦略を開発することである。 これまでに、大腸がん由来のHCT116細胞において上皮間様転換(EMT)を誘導したEMT細胞を作製し、エピジェネティック関連のBET阻害剤やGPX4阻害剤、xCT阻害剤などのフェロトーシス誘導剤に高感受性を示すことを見出している。そこで、EMT細胞におけるフェロトーシス誘導剤への高感受性化に関わる因子について研究した。EMT細胞では、過酸化脂質の代謝に重要なGPX4の発現や細胞内グルタチオン量が低下していることを明らかにした。こうした過酸化脂質の除去に関連する因子の発現低下が、GPX4阻害剤、xCT阻害剤への感受性化を誘導することを見出した。 次に、EMT細胞特異的に細胞増殖を抑制する薬剤を当研究室所有の化合物群から探索した。その結果、EMT細胞では、HER2阻害剤のTAK165、CDK4/6阻害剤のpalbociclibなどが効果的に細胞増殖を抑制することを見出した。現在、EMT細胞における遺伝子発現変動と薬剤感受性の変動の関連について検討を行っている。 また、3次元培養によりスフェロイドを形成したHCT116細胞においてもEMT細胞と同様のスクリーニングを行った。その結果、BET阻害剤がスフェロイドを形成したがん細胞に対して効果的に増殖を抑制することを見出した。 以上の研究から得られた薬剤を組み合わせて細胞に処理することで、がん細胞の細胞転換により生じるheterogenietyを克服する新規治療法の開発を目指し研究を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
EMT細胞においてGPX4阻害剤のRSL3やxCT阻害剤のerastinへの高感受性化を誘導する分子機構について検討した。EMT細胞では、GPX4の発現量が低下していることを明らかにした。また、EMT細胞では細胞内グルタチオン量が低下していた。グルタチオンの含量を低下させるerastinはEMT細胞特異的に増殖を抑制した。また、erastinはRSL3感受性を増大させた。以上から、EMT細胞におけるGPX4の発現低下、細胞内グルタチオン量の低下がフェロトーシス誘導剤のRSL3とerastinに対する感受性を増大させることが明らかになった。 RSL3、erastinやBET阻害剤の他にEMT細胞で特異的に細胞増殖を抑制する化合物をスクリーニングした。EMT細胞では、HER2阻害剤のTAK165、CDK4/6阻害剤のpalbociclibに対して高感受性を示した。HCT116細胞とEMT細胞でcDNAアイクロアレイにより遺伝子発現を比較した。EMT細胞で共通して発現変動する遺伝子群の機能解析を行ったところ、上皮間様転換の特徴である細胞間接着や細胞骨格に関わる遺伝子群の他に、炎症性サイトカイン関連、cell cycle関連、MAPK経路、PI3K/AKT経路、ミトコンドリアに関連する遺伝子群の発現が変動していた。現在、ヒット化合物とこれらの遺伝子の発現変動との関連を検討中である。 HCT116細胞を用いて、通常培養時とスフェロイド培養時の薬剤感受性について153種類の化合物を用いて検討した。その結果、9種類のヒット化合物を得た。このうちで、BET阻害剤が複数存在したことから、スフェロイドを形成した細胞では、BET関連タンパク質の機能が細胞増殖に重要であると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
EMT細胞で発現変動が生じた炎症性サイトカイン関連、cell cycle関連、MAPK経路、PI3K/AKT経路、ミトコンドリアに関連する遺伝子群と、EMT細胞におけるTAK165、palbociclibやBET阻害剤への感受性の変化との関連について検討を行うことで、それぞれに対する感受性規定因子を同定する。また、これらの実験で得られた知見を大腸がん以外のがん細胞にも応用可能か検討していく予定である。 スフェロイド形成細胞におけるcDNAマイクロアレイのデータを取得し、スフェロイドの薬剤感受性の規定因子について探索を行う。cDNAマイクロアレイ解析により抽出された発現変動遺伝子群とBETファミリータンパク質の関連について検討する。以上の検討により、スフェロイド形成時にBET阻害剤に感受性化する分子機構を同定し、スフェロイド培養時の恒常性維持に重要な分子機構を明らかにする。 EMT細胞およびスフェロイド形成細胞でのマイクロアレイ解析による結果から、細胞転換時に共通して発現変動する遺伝子群を同定する。共通して発現変動した遺伝子群のうちで影響が大きい遺伝子を見出す。この遺伝子とBETファミリータンパク質との関連について検討することで、EMT及びスフェロイド形成時の細胞転換時に恒常性の維持に重要な分子機構を同定する。 EMT細胞で効果の高かったCDK阻害剤、HER2阻害剤、GPX4阻害剤、xCT阻害剤をBET阻害剤と組み合わせて処理することで、単独よりも強い殺細胞効果を示す薬剤の併用を探索する。ヒットした薬剤の組み合わせに関しては、EMT細胞、スフェロイド形成細胞でも検討を行う。以上の検討により細胞転換によるがん細胞の多様性を克服可能な新規治療法を考案する。
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Research Products
(9 results)