2021 Fiscal Year Research-status Report
免疫系ヒト化マウスモデルによるマクロファージを標的とした新規がん免疫療法の開発
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20K16358
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
飯田 理恵 大阪大学, 微生物病研究所, 特任研究員(常勤) (10816771)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | Bリンパ腫 / 免疫系ヒト化マウス / 腫瘍免疫 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトCD47とヒトSIRPαとの結合を阻害する抗ヒトSIRPα抗体を、ヒトBリンパ腫細胞株を皮下移植した免疫系ヒト化次世代免疫不全マウスに2週間投与したところ、単独投与では有意差が見られなかったが、抗CD20抗体と併用投与した結果、顕著な腫瘍の縮小が見られた。また、腫瘍組織内の免疫細胞の構成を解析した結果、T細胞やNK細胞と比較しマクロファージの存在率が高い傾向があった。マクロファージ枯渇試薬であるクロドロン酸リポソームを投与して腫瘍内のマクロファージを除去したところ、抗ヒトSIRPα抗体と抗CD20抗体による腫瘍の縮小効果が有意に減弱された。 さらに、マクロファージによるがん細胞の抗体依存性細胞貪食(ADCP)を評価するため、ヒトマクロファージとヒトBリンパ腫細胞株のin vitro共培養系に抗ヒトSIRPα抗体を加えた結果、単独では効果がなかったが、抗CD20抗体と同時に加えたところADCP活性が顕著に増強した。加えて、マウスマクロファージでは抗ヒトSIRPα抗体を加えても抗CD20抗体によるADCPの活性増強は起こらなかった。 以上の結果から抗ヒトSIRPα抗体は、免疫系ヒト化次世代免疫不全マウスに移植された腫瘍内で分化したヒトマクロファージに作用し、抗CD20抗体によるADCPを増強して腫瘍縮小を引き起こすことが示唆された。これらの発見は、免疫系をヒト化した次世代免疫不全マウスモデルが、抗ヒトSIRPα抗体などのヒトマクロファージを標的とする治療を評価するのに適した新しいツールであることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定通り、次世代型免疫系ヒト化マウス腫瘍モデルを用いて、抗ヒトSIRPα抗体による免疫療法の奏効性を明らかにした。さらに、移植腫瘍内に浸潤した免疫細胞の解析やマクロファージ枯渇実験により、抗ヒトSIRPα抗体と抗CD20抗体の併用による腫瘍縮小効果は腫瘍内に浸潤したヒトマクロファージを介していることを示唆するデータが得られた。 しかしながら、予定されていた腫瘍内ヒトマクロファージの遺伝子発現解析については、統計解析を行うのに十分なサンプル数が得られていないため、今後もサンプル採取のための免疫系ヒト化マウス作成と移植実験を繰り返し行う必要がある。また、Bリンパ腫患者由来のサンプルを用いた腫瘍組織移植モデル(Patient-derived xenografts:PDXモデル)については、患者由来の腫瘍サンプルを得る機会が限られていることから、腫瘍移植条件や薬剤評価系の検討が十分にできておらず、今後さらに検証実験を継続する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の次世代型免疫系ヒト化マウス腫瘍モデルを用いて、移植腫瘍内のヒトマクロファージの遺伝子発現解析を継続して行い、ヒトマクロファージにおける抗ヒトSIRPα抗体刺激による応答機構の詳細について解明する。また、Bリンパ腫患者から採取された腫瘍サンプルのマクロファージの存在率・性状を解析した上で、次世代型免疫系ヒト化マウスに腫瘍サンプルを移植して形成された腫瘍組織内のヒトマクロファージを再度解析することにより、ヒト体内での腫瘍のマクロファージの存在率・性状がマウス体内の腫瘍移植片でどの程度反映できているかを明らかにする。さらに、複数の患者由来のサンプルを用いて、上記研究実績に記載した実験と同様に、抗ヒトSIRPα抗体と抗CD20抗体を投与して、抗腫瘍効果について明らかにする。また、患者サンプル間で、マウスに移植した後の抗ヒトSIRPα抗体の抗腫瘍効果、ヒトマクロファージ存在率・性状等を比較し、それらの関係性について検討する。
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Causes of Carryover |
2021年度に、RNA-seq解析やPDXモデル作製と抗ヒトSIRPαの薬効評価を行う予定であったが、統計解析を行うための十分なデータの取得が遅延したため、今後も継続して実験を行う必要が生じた。また、新型コロナウイルス感染対策により現地での学会発表ができず旅費の未使用額が生じた。さらに、申請者の所属先の変更によって、当初予定していた学会発表や論文投稿が延期となり、未使用額が生じた。 RNA-seq解析やPDXモデルの作製、現地での学会発表、論文投稿を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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Research Products
(1 results)