2021 Fiscal Year Research-status Report
低栄養環境で高発現するがん特異的代謝遺伝子とがん代謝リプログラミングに関する研究
Project/Area Number |
20K16371
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Research Institution | Microbial Chemistry Research Foundation |
Principal Investigator |
小野寺 威文 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所 沼津支所, 研究員 (20733166)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | がん代謝 / ペントースリン酸経路 / 膵がん |
Outline of Annual Research Achievements |
がん細胞は、増殖・生存に必要なエネルギー獲得のため、解糖系に高度に依存した代謝改変を行っている。近年、解糖系以外の複雑な代謝経路の変化が幾つか発見されており、がん特異的代謝を分子標的治療薬の標的とすることは、新規抗がん剤の開発戦略として有望である。我々は腫瘍内部環境を模倣した低栄養(グルコースおよびアミノ酸欠乏)環境下において、エネルギー代謝経路の一つであるペントースリン酸経路に関わるトランスケトラーゼファミリー遺伝子の発現が著しく増加することを見出した。興味深いことに、トランスケトラーゼファミリー遺伝子はグルコースに依存せずグルタミン欠乏において、発現が誘導されることが明らかとなった。本年度は計画通り、低栄養環境におけるトランスケトラーゼファミリー遺伝子の発現制御機構の解明を目的として転写因子の検討を行ったところ、低酸素応答、酸化ストレス応答に関連する転写因子が候補として挙げられた。また、腫瘍悪性化に関連したTKTL1の機能解明のために動物実験を行ったところ、トランスケトラーゼファミリー遺伝子の過剰発現細胞株の造腫瘍性が亢進した。以上の結果から、膵がん細胞がアミノ酸欠乏環境に曝されると、低酸素応答、酸化ストレス応答に関連する転写因子が活性化し、トランスケトラーゼファミリー遺伝子の発現が上昇するとともに、がん細胞の増殖を有利にさせるような代謝シフトが行われることで、がん微小環境に適応している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
低栄養環境においてトランスケトラーゼファミリー遺伝子の発現が上昇するメカニズムについて、グルタミン存在下ではその発現誘導が抑制されることから、遺伝子発現はアミノ酸による制御を受けている可能性が示された。そこで、低栄養環境においてTKTL1が高発現するメカニズムを明らかにするために、Gene Set Enrichment Analysis (GSEA)解析法を用いて転写因子解析を行った。その結果、トランスケトラーゼファミリー遺伝子の発現制御に関わる転写因子候補を複数個に絞ることができた。このように令和3年度の研究計画どおりに進んでおり本研究は概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、トランスケトラーゼファミリー遺伝子の発現制御メカニズムを明らかにする。具体的には、レポーターアッセイによる転写因子活性を解析する。また、トランスケトラーゼファミリー遺伝子の酵素活性やタンパク質相互作用の解析などの生化学的解析を詳細に行い、腫瘍増殖との関連性を明らかにする。ペントースリン酸経路およびトランスケトラーゼファミリー遺伝子を標的とした抗がん剤は未だ開発されていないため、TKTL1を新たながん治療の標的分子候補として検討していく。
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Causes of Carryover |
トランスケトラーゼファミリー遺伝子と相互作用しているタンパク質の同定のため、受託サービスを利用する予定である。また、トランスケトラーゼファミリー遺伝子の造腫瘍性実験で使用する動物の購入に充てる計画である。そのため次年度使用額が生じた。
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