2020 Fiscal Year Research-status Report
腫瘍免疫に注目した遺伝子発現と病理組織による粘液型脂肪肉腫の予後予測モデルの構築
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20K16408
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鎌谷 高志 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任助教 (90645764)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | がん免疫 / 南部肉腫 / RNA / 病理画像 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、粘液型脂肪肉腫(ML)の腫瘍免疫を遺伝子発現と病理組織から解明することで、予後予測のみならず、将来のがん免疫療法の薬剤応答への評価指標として期待ができるものである。我々は以前の研究で、遺伝子発現量データから、MLをhot腫瘍とcold腫瘍に分類し、予後や免疫学的特徴が大きく異なることを示した。このように近年、解析技術の発展により、CIBERSORTやMCP-counterなどのソフトを用いて遺伝子発現データのみから腫瘍内免疫環境を推測することが可能である。しかし、実際のがん組織内で、がん細胞の周囲に免疫細胞が存在するのか、全く関連がないところに存在するのか、といった細胞同士の位置関係が、免疫細胞の働きへ与える影響は大きいと考えられる。そのため、本研究では、病理画像上での免疫細胞・癌細胞の分布と臨床データ・遺伝子発現データとの関連の検証を目的とした。近年、B細胞やマクロファージの癌免疫環境の重要性がわかってきたため、2020年度は同定する免疫細胞を腫瘍浸潤リンパ球から大幅に染色の種類を増やし、CD3, CD8, PD1, PD-L1, CD20, CD68, FoxP3を染色する方針とした。まずそれぞれを単染色し、病理画像サンプルを取得した。次に、免疫細胞の同定に移った。免疫細胞の同定は、深層学習モデルと既存の画像解析手法で行った。その結果、非常に高い精度で同定することに成功した。その同定した細胞の重心の位置を取得し、病理画像上の免疫細胞の分布に用いた。病理画像の分布の定量化し、免疫細胞同士の分布の関係性を評価する方法として、複数の数理学的な方法を用いた。結果、免疫細胞同士の位置関係の定量化に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は、新型コロナウイルス感染症に対する当研究室の対応として、リモート体制を整えることを最優先したこと、病理画像を染める予定の病院が、新型コロナウイルス感染症に対応する感染症指定病院として活動していたことから、前半は思うように進まなかった。しかし、その間もweb会議による話し合いをすすめ、議論を深めることで、染色数を増やす方針に変更することができた。近年、B細胞やマクロファージが癌免疫環境の構築に非常に重要な役割を果たしていることもわかっており、当初予定していたリンパ球以外の複数の免疫細胞を染色することで、以前より更なる知見を得ることができると考える。病理画像サンプルを取得後、免疫細胞の同定に関しては、当初の予定よりかなり早い期間で高精度の同定が可能になり、次の段階へ進めることができた。免疫細胞の分布評価においては、様々な研究機関の研究者たちと議論を深めることで、従来予定していた方法以外に複数の方法で、定量化することに成功した。しかし、当初の予定であった、遺伝子発現量データから得られた免疫学的特徴との関連性の解析には進められていない。その理由として、免疫染色の方法として連続切片に対して単染色を行っていたが、この方法は1つ問題点があった。それは、別種の細胞同士の分布の距離などの関係性を解析するにあたり、連続切片ではごくわずかのz軸上のずれがあり、厳密な細胞同士の分布の距離を計測することはできない。今回我々は、より正確な方法を取るために、当初の単線色の解析に加えて、多重染色を行う方針を追加した。多重染色をすることで同一切片上の免疫細胞の分布の関係性を正確に評価可能となる。上記の染色全ての7重染色を行う手筈は既に整えている。
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Strategy for Future Research Activity |
遺伝子発現量を用いたがん免疫境推定の方法では、腫瘍内における免疫細胞の空間分布・情報は失われる。本研究における、7種の免疫細胞の位置関係を数理的に定量化する方法は、癌研究の分野において非常に新しい。本研究は、複数の免疫細胞同士の空間的関係性を解析し、遺伝子発現データや臨床的関連性を調べ、将来のがん免疫療法の薬剤応答に関連する評価指標の解析を行うことを目指す。2020年度は、新型コロナウイルス感染症および染色方法の変更の問題で、多少の遅れは出ているが、7色の免疫染色を用いた単染色データにより、免疫細胞の同定・免疫細胞の分布定量化、細胞同士の分布の関係性の定量化にはすでに成功している。2021年度はまずは、多重染色を進める。サンプル数も多く、工程も複雑で時間もかかるので、数ヶ月単位で終了すると予想している。その後の、免疫細胞の同定・免疫細胞の分布定量化、細胞同士の分布の関係性の定量化に関しては、すでに手法が確立しているため、短い期間で終了すると考える。その後、遺伝子発現量データや、予後などの臨床情報と組み合わせ、重要な免疫学的特徴を掴むことを目指す。粘液型脂肪肉腫(ML)はほとんど免疫学的な解析がされておらず、免疫療法の効果のバイオマーカーなども未知の領域である。ML患者の予後予測の指標に用いられるようなバイオマーカーを発見し、予後が悪い患者には別の治療選択肢を提供する、などオーダーメイド医療の検査手法の1つになりうることを期待する。
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Causes of Carryover |
当初既存の免疫細胞同定手法として、有償のソフトの購入を考慮していたが、深層学習モデルの構築、無償のソフトを用いた同定に成功し、謝金が必要なくなった。また新型コロナウイルス感染症の影響で、該当する全学会がオンライン開催となり、旅費が必要なくなった。その分、より性能の高いマシンを購入した。 2021年度はデータ保存用のHDDの購入、および当研究用のノートPC購入のため、使途変更を考慮している。
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