2020 Fiscal Year Research-status Report
樹状突起における局所翻訳が高次脳機能に果たす役割の解明
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20K16463
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Research Institution | Center for Novel Science Initatives, National Institutes of Natural Sciences |
Principal Investigator |
大橋 りえ 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 助教 (40867529)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 局所翻訳 / 樹状突起 / mRNA輸送 / Arf GEF, GAPファミリー / 高次脳機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経樹状突起へのmRNA輸送とそれに伴う局所翻訳は、シナプス長期増強に必須の制御機構として知られている。しかし、どのような種類のmRNAが輸送され、それらの翻訳産物がどのように高次脳機能を制御するのか、未解明の点が多い。そこで本研究では、高次脳機能に関与することが既知のRNA結合タンパク質RNG105依存的に、樹状突起へ局在化するArf GEF, GAPファミリーmRNA群に着目した。神経細胞および脳内において、これらmRNAの樹状突起への輸送を操作し、シナプス長期増強及び種々の行動様式に与える影響を解析する。これにより、局所翻訳新規候補遺伝子群Arf GEF, GAPファミリーのmRNA輸送と局所翻訳を介した新たな高次脳機能制御機構の解明を目指す。 Arf GEF, GAPファミリーのうち、シナプス長期増強に影響を及ぼすことを確認済みであり、かつ、樹状突起へのmRNA輸送責任領域の同定に成功したArf GEF, GAP各々1種類に着目した。CRISPR/Cas9 システムにより各Arf GEF, GAP mRNA の樹状突起への輸送責任配列を欠損させたマウス (Δ3’UTR) を作出した。Arf GEFΔ3’UTRマウスについて組織学的解析を行った結果、Arf GEF mRNAの海馬樹状突起への局在化は予想通り顕著に低下したが、細胞体における翻訳の低下を伴うという予想外の影響が見られた。現在、細胞体における翻訳低下が回避可能か否かを検討している。また、Arf GAPΔ3’UTRマウスについても組織学的解析を行っている。今後、これらArf GEF, GAP mRNAの樹状突起局在化のみを低下させたマウスの作成を試み、種々の行動様式に与える影響を網羅的に解析する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Arf GEF, GAPファミリーのうち、神経初代培養細胞における発現抑制実験によってシナプス長期増強に影響を及ぼすことを確認済みであり、かつ、mRNAイメージング解析により樹状突起へのmRNA輸送責任領域の同定に成功したArf GEF, GAPそれぞれ1種類に着目した。 CRISPR/Cas9 システムにより、各Arf GEF, GAP mRNA の樹状突起への輸送責任配列を欠損させたマウス (Δ3’UTR) を作出した。いずれも成体のホモ欠損個体を得ることに成功し、このうち、Arf GEFΔ3’UTRマウスについて組織学的解析を行った。脳切片においてin situ hybridizationによりArf GEF mRNAの局在を解析した結果、Arf GEFΔ3’UTRマウスでは野生型マウスと比較して、海馬樹状突起領域への局在化が有意に低下した。しかし、海馬におけるタンパク質発現量及び局在をウエスタンブロッティング及び抗体染色により解析した結果、Arf GEFΔ3’UTRマウスでは野生型マウスと比較して、細胞体におけるタンパク質発現量の顕著な低下が見られた。細胞体における翻訳量は維持したまま、mRNAの樹状突起局在のみを低下させることで局所翻訳の影響を解析するという目的を達成するため、現在、細胞体における翻訳低下が回避可能か否かを検討している。具体的には、欠損させた領域のうち、細胞体における翻訳に必要な領域の同定を試みている。また現在、Arf GAPΔ3’UTRマウスについても組織学的解析を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞体における翻訳は維持しつつ樹状突起へのmRNA輸送を低下させたマウスの作出を目指す。Arf GEFΔ3’UTRマウスで欠損させた樹状突起へのmRNA輸送責任領域のうち、細胞体における翻訳に必要な領域を同定する。具体的には、神経初代培養細胞においてGFPの下流に輸送責任領域の様々な部分長をつなげたコンストラクトを発現させ、GFPシグナルを指標に翻訳量を解析する。樹状突起へのmRNA輸送責任領域のうち、細胞体における翻訳量の維持に必要な最小限の領域を同定し、その領域を戻したマウスの作出を目指す。mRNA輸送と細胞体における翻訳が同一の最小領域で制御されることが判明した場合、mRNA輸送と細胞体での翻訳の制御が連結している可能性も検討する。例えば、輸送にはmRNAがRNA顆粒に取り込まれる必要があるが、細胞体における効率的な翻訳にもRNA顆粒に取り込まれる必要があるか等の検証を行う。Arf GAPΔ3’UTRマウスについては現在、組織学的解析の途中であるが、細胞体における翻訳量の低下が見られた場合は同様の方針で研究を進める。
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Causes of Carryover |
研究代表者が年度の途中に所属を変更したことから、移管手続きの期間中、消耗品等の購入を一時中断した期間が生じたために次年度使用額が生じた。今後、異動先において研究を継続して実施するために必要な消耗品類の購入、また、前所属機関において作出・維持していた変異マウス系統の導入に係る費用等に使用予定である。
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