2020 Fiscal Year Research-status Report
線維筋痛症モデルにおけるミクログリアを介したリゾホスファチジン酸分子機構の解明
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20K16511
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
根山 広行 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (70846609)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ミクログリア / 線維筋痛症 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、線維筋痛症モデルにおける脳内ミクログリアを介したリゾホスファチジン酸(LPA)の分子機構を解明することを目的としている。私は、これまでに線維筋痛症モデルの疼痛にLPAが関与することを明らかにしている。本研究を始めるにあたりミクログリア阻害剤により、痛みが抑制される可能性を明らかにしており、本研究では、ミクログリアを介したLPAの分子機構解明を目指している。今年度は、まず、ミクログリア阻害剤により本当にIPSモデルの痛みが改善されるかどうか検討した。その結果、線維筋痛症モデルであるIPSモデルでミクログリア阻害剤であるミノサイクリンが、IPS処置後3日目、4日目、5日目の連続投与により、5日目の痛みを有意に抑制することが明らかとなった。次に、PETイメージングによりミクログリア活性化の脳領域について検討する予定であったが、予定通りにイメージングは行うことができなかった。そのため、実験の順序を変更し、まず免疫染色によりミクログリアの活性化領域を検討した。IPS処置後1, 5日目の脳切片を用いて、免疫染色による組織化学的解析により、主に痛み、ストレスに関連する視床や中脳、扁桃体、視床下部などを中心に解析したが、顕著なミクログリアの活性化は見られなかった。これは、ミクログリアの活性化が起こるタイミングもしくは脳領域が違うことを示唆しており、さらなる解析が必要である。近年、腹側被蓋野、側坐核など報酬系に関与する領域と疼痛の関与が明らかにされつつあり、そのあたりの領域の解析もポイントになると考えている。しかし、重要なのは、脳内ミクログリアとLPAの関与を明らかにすることであるため、今後は、ミクログリアが関係していると報告がある他の線筋痛症モデルへの変更も視野に入れて実験を進める必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、コロナウイルス拡大の影響で在宅勤務を余儀なくされ、思うように実験を進めることができなかった。PETイメージングは、共同研究や予算最終年度の実験など急ぎのPETを用いた仕事が優先的に使用されたため、使用上の兼ね合いで予定を立てて実験を行うことが困難であった。特にPETイメージングは複数の人手が必要なため、行いづらい状況にもあったため、実験の順序を変更し、免疫染色によりミクログリアの活性化について検討せざるを得なかった。しかしながら、現在、免疫染色によってミクログリアの活性化は検出できていない。これは検出のタイミングや解析領域の問題もあり、検出できていないことが考えられる。ミクログリアを介したLPAの分子機構を解明するためにはミクログリアの活性化の脳領域を特定することが必要不可欠であり、経時的に解析することのできるPETを行うことが最善の方法であると考えられるが、他の仕事との兼ね合いを考えながらPET、免疫染色でミクログリア活性化脳領域の特定を行う予定である。計画では今年度にミクログリアの活性化脳領域を同定すること予定であったが特定するまでに至っておらず、やや遅れていると考えられるが、他のモデルも含めて様々な知見が得られていることから、次年度で遅れを取り戻せると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、IPS誘発性線維筋痛症モデルにおいてIPS処置1日目、5日目では、ミクログリアの集積、活性化を検出することができなかった。よって、違う時間および領域を検証する予定である。また、他の仕事との兼ね合いもみながら、PETイメージングを行う予定である。ミクログリアの活性化が検出されない場合、現モデルではミクログリアを介したLPAの分子機構を解明することは困難であるので、モデル動物の変更を検討している。今年度、適正なモデルの参考となる実験に共著者として携わることができた。1つ目は、線維筋痛症の症状に非常に類似した症状を示す慢性疲労症候群があるが、このモデルとなりうるウイルス感染を引き起こすpoly I:Cを投与したウイルス疑似感染モデルがある。このモデルは、痛みが起こることが分かっており、線維筋痛症に類似したモデルとして扱うことができる可能性があるが、このモデルを用いてPETイメージングを行うといくつかの領域でミクログリアの集積が認められ、thalamus, parabrachial nucleus, A7, A11などの領域において痛みに関与している可能性が明らかになった。ただし、LPA、ミクログリアと疼痛との関与はわかっていないのでLPA受容体阻害剤、ミクログリア阻害剤の脳室内投与で痛みが改善されるかどうか追加で行う必要がある。2つ目は、他の線維筋痛症モデルである酸誘発性線維筋痛症モデルにおいて、脳内ミクログリアが疼痛に関与していることが明らかになった。このモデルはLPA受容体ノックアウトマウスで痛みが消失することを明らかにしているため、LPAとの関与はすでに分かっており、すぐにモデル変更しても差し支えないと考えられる。今年度、これらのモデルによる所見が明らかになったことから、次年度、まずは当初予定したモデルが適切であるか再検討する必要がある。
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Causes of Carryover |
今年度は、コロナウイルスの拡大の影響で在宅勤務を余儀なくされ、すべての実験が一時中断してしまった。実験再開後もPETイメージングを行う予定であったが、予算最終年度の実験や共同研究などの急ぎのPETを用いた仕事に優先的に使用されたため、使用上の兼ね合いから予定をたてて実験をすることが困難であった。特にPETイメージングは複数の人手を必要とするため、行いづらい状況にあった。そのために、使用する金額が抑えられ、次年度使用額が発生した。次年度は、今年度行えなかったPETを行うことを主軸とし、脳内ミクログリアの集積、脳内責任部位の同定を行う。具体的には、ミクログリアのTSPOを認識する[18F]DPA-714を用いて、線維筋痛症モデルである脳内ミクログリアの集積、活性化を解析する。しかしながら、今年度の実績からミクログリアの集積、活性化を検出することが困難な可能性があるため、そのほかの線維筋痛症モデルでも同時にPET、免疫染色を用いて検討する予定である。ミクログリアの脳内集積領域が同定された後は、脳内責任部位に阻害剤、ウイルスベクターをin vivo microinjectionし、ミクログリア集積領域と疼痛の関係を検証する。さらには、LPAノックアウトマウスやshRNAを用いた実験により、ミクログリアの集積、活性化が抑えられるかを検証することにより、ミクログリア活性化とLPAの関係を明らかにする。
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