2020 Fiscal Year Research-status Report
薬剤耐性を起こす小型コロニー形成細菌のオミクス解析を用いた新たな治療戦略の確立
Project/Area Number |
20K16517
|
Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
太田 悠介 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (90868530)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | Small colony variant / antimicrobial resistance |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、small colony variant (SCV) の遺伝学的・臨床細菌学的特徴を明らかにし、適切な検出法や制御法を見出すことで、antimicrobial resistance (AMR) に対する新たな治療戦略を確立することである。本年度は、ヘミン要求性Pseudomonas aeruginosa (P. aeruginosa) SCVとP. aeruginosa野生型株を対象とした。複数濃度のヘミンを添加した菌液を培養し、吸光度変化を計測することで、発育に必要なヘミンの最適濃度を決定した。CLSIに準拠した微量液体希釈法による薬剤感受性の通常測定と、培養液にヘミンを添加した測定を行った。P. aeruginosa SCVとP. aeruginosa 野生型株をHBE1細胞に感染させ、培養上清中の炎症性サイトカインをELISA法により測定し、結果を比較検討した。 P. aeruginosa SCVの発育曲線では、1.0 μg/mL及び10 μg/mLのヘミン添加で野生型株と同等の発育性を示した。P. aeruginosa SCVを対象に実施した微量液体希釈法による通常測定では、発育不良により結果が得られなかった一方で、1.0 μg/mLのヘミン添加で行った測定では野生型株と同等の結果が得られたことから、ヘミン要求性株の薬剤感受性測定ではヘミンを添加することで妥当な結果が得られることが示唆され、日常細菌検査において適切に検査できる可能性を示した。ELISA法による炎症性サイトカイン産生量の測定では、SCV株について野生型株と比べてIL-6及びIL-8の産生量が有意に高く、SCV株の感染ではより強い炎症を引き起こすことが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、肺炎患者の喀痰培養より分離されたヘミン要求性P. aeruginosa SCVを対象に、臨床細菌学的特徴を明らかにした。また従来の検査用培地にヘミンを添加することで、日常細菌検査業務において適切に薬剤感受性を検査し、有効な抗菌薬を決定できる可能性を示した。更に、P. aeruginosa SCVと野生型株の比較により、これまで明らかになっていない病原性に関する知見を得た。 本研究では、「SCVs臨床株の形成機構の解明」、「SCVs人工モデルの性状解析」、「SCVs検査法の開発と制御法の構築」を目標に掲げており、当該年度の実績により「SCVs臨床株の形成機構の解明」に関して解明の手がかりとなるSCV感染に対する免疫応答を確認することができ、また「SCVs検査法の開発と制御法の構築」に関して臨床検査で結果を得ることができなかったヘミン要求株について検査方法を最適化した。一方で、現時点で明らかでないヘミン要求性の原因、及びSCV株で強い炎症を惹起した原因を明らかすることが、次年度への課題と考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
P. aeruginosa SCVにおけるヘミン要求性の原因を同定するため、全ゲノム解析により原因遺伝子を特定し、その遺伝子の機能及びSCV形成メカニズムを解明する。そしてその遺伝学的特徴を生化学的な表現型等の結果と組み合わせることで総合的にSCVと判断できる方法論を構築する。一方で、SCVの病原性解析としてlipopolysaccharide、biofilmや各種toxinなど様々な病原性関連因子の発現量を定量し、IL-6及びIL-8の上昇を引き起こした原因を探る。更に、ヘミン要求性P. aeruginosa以外の様々な菌種のSCVを対象に、同様の検討を実施することでSCVの細菌学的特徴及び遺伝学的特徴の解明を試みる。そしてそれらの知見を元に、SCVの適切な検出法や制御法を見出すことで、AMRに対する新たな治療戦略の確立を目指す。
|
Causes of Carryover |
研究テーマに関連した学会へ参加するための旅費として使用予定であったが、オンライン上での開催となり未使用額が生じた。関連学会への参加を次年度行い、未使用額はその経費に充てることとしたい。
|