2021 Fiscal Year Research-status Report
薬剤耐性を起こす小型コロニー形成細菌のオミクス解析を用いた新たな治療戦略の確立
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20K16517
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
太田 悠介 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (90868530)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 小型コロニー形成細菌 / Escherichia coli / Pseudomonas aeruginosa / 全ゲノム解析 / RNAシーケンス解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、持続性感染症に関わるsmall colony variant (SCV) の遺伝学的・臨床細菌学的特徴を明らかにし、SCVに対する適切な検出法や制御法を見出すことで、新たな治療戦略を確立することである。 当該年度は、栄養要求性が不明のEscherichia coli (E. coli) SCVとその野生型株を対象に全ゲノム解析を行い、小型コロニー形成に関わる遺伝子変異の有無を確認した。また同じE. coli SCV及び前年度の解析で強い病原因子の存在が示唆されたPseudomonas aeruginosa (P. aeruginosa) SCVについてRNAシーケンス解析を行い、生物代謝及び病原性に関わる遺伝子発現量変化を網羅的に評価した。 E. coli SCVの全ゲノム解析では、生物代謝に関わるこれまでに報告のない遺伝子に変異を生じており、小型コロニー形成への関与が示唆された。更にはRNAシーケンス解析では、SCVにおいて外的要因などの環境ストレスに対する生育の制御に関わる遺伝子の発現量が大きく増加していたことから、生体の免疫応答を回避し持続性・再発性感染症に関与するSCV株の特徴を裏付ける知見が得られた。P. aeruginosa SCVのRNAシーケンス解析では、ヘム生合成に関わる遺伝子や呼吸代謝に必要な遺伝子の発現量が大きく変動していたことから、菌体内でのATPレベルを調整することで生体内での動態を制御している可能性が示された。これらの結果から、SCV形成への関与が推測される遺伝子を明らかにし、更には持続性・再発性感染症に関わるSCVsの遺伝的性質の一端が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、栄養要求性が不明なE. coli SCV及びヘミン要求性P. aeruginosa SCVを対象に、全ゲノム解析及びRNAシーケンス解析により遺伝的性質を明らかにした。本研究では、「SCVs臨床株の形成機構の解明」、「SCVs人工モデルの性状解析」、「SCVs検査法の開発と制御法の構築」を目標に掲げており、前年度の実績により「SCVs検査法の開発と制御法の構築」に関してヘミン要求性P. aeruginosa SCVの検査方法を最適化し、当該年度の実績により「SCVs臨床株の形成機構の解明」に関してその遺伝的特徴の一端を明らかにした。次年度は「SCVs人工モデルの性状解析」に関わるSCVs人工モデルを取得し、親株あるいは臨床株との性状比較により、総合的にSCVsと判定できる方法論を構築することが課題であり、当該年度までの実験結果を踏まえて十分遂行可能と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
申請書に従いSCV人工モデルを作製する。作製が困難であった場合は外部機関より遺伝子欠損を持つバイオリソース株を取得する。臨床分離SCVと人工SCVの生化学的、遺伝学的性状の違いを見極め、広義的にSCVと判定できる方法論を構築する。 一方、生体内でのSCVsの役割を明らかにするため、in vivoでの感染実験を試みる。感染症モデルが構築されている生物であるカイコを使用し、これまでの実験で取得した様々なSCV及びその野生型株を感染させ、その生存率を評価することでSCVの病原性を明らかにする。そしてこれまでに得られたSCVの生化学的性状、遺伝学的性状、病原性に関わるデータを統合することで、SCVが持続性感染症を引き起こすメカニズムを明らかにする。
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Causes of Carryover |
研究テーマに関連した学会へ参加するための旅費として使用予定であったが、オンライン上での開催となり未使用額が生じた。関連学会への参加を次年度行い、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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