2022 Fiscal Year Research-status Report
薬剤耐性を起こす小型コロニー形成細菌のオミクス解析を用いた新たな治療戦略の確立
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20K16517
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
太田 悠介 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (90868530)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 小型コロニー形成細菌 / 全ゲノム解析 / RNAシーケンス解析 / カイコ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、持続性感染症に関わるsmall colony variant (SCV) の遺伝学的・臨床細菌学的特徴を明らかにし、SCVに対する適切な検出法や制御法を見出すことで、新たな治療戦略を確立することである。前年度までの研究により、SCVにおいて外的要因などの環境ストレスに対する生育の制御に関わる遺伝子の発現量が大きく増加していたことから、生体の免疫応答を回避し持続性・再発性感染症に関与するSCV株の特徴を裏付ける知見が得られた。 当該年度は、前年度実施したRNAシーケンスデータの機能分類により、特に菌の生存戦略に関わる遺伝子を探索し、該当遺伝子について定量PCR法により妥当性を検証した。またSCV人工モデルを用いて、臨床分離SCVと同様の挙動を示すか、定量PCR法により評価した。更には感染症モデルが構築されている生物であるカイコを使用し、SCV及びその野生型株を感染させ、その生存率を評価することでSCVの病原性を明らかにした。 RNAシーケンスデータから、バイオフィルム形成量を制御する遺伝子発現量が、SCVにおいて顕著に低下していた。SCV人工モデルでは、臨床分離SCVと同様にストレス応答に関わる遺伝子発現量に関して同様の傾向が認められた。またカイコを用いた感染実験では、野生型株の方がSCV株と比べて短期間でより多くのカイコを死亡させた。これらの結果から、SCV形成と環境ストレス制御遺伝子との関連が明らかとなり、またその変化はカイコの生存において感染初期の病原性を減弱させる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度は、申請内容に従い、臨床分離SCVに加えSCV人工モデルを用いた遺伝的・表現的解析を行った。本申請課題では、「SCV臨床株の形成機構の解明」、「SCV人工モデルの性状解析」、「SCV検査法の開発と制御法の構築」を目標に掲げている。SCVにおいて、病原微生物の生存にも関わるバイオフィルム関連遺伝子の発現量の顕著な変化が新たに認められたことから、制御法の構築に関連してSCVにおけるバイオフィルム形成量を評価する必要性が生じた。また人工モデルSCVについても同様の評価を行うことで、総合的にSCVsと判定できる方法論を構築する必要があり、本研究課題の進捗状況について当初の予定よりもやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
細菌におけるバイオフィルム形成能の確認手法は多岐に渡るため、SCVの評価に有用な方法を選択し、適宜最適化を行う。バイオフィルム形成能測定の最適化法を用いて野生型株、臨床分離SCV、SCV人工モデルの解析を行い、遺伝子変異・発現量や病原性との関わりを評価することで、SCVが持続性感染症を引き起こすメカニズムを明らかにする。一方で、これまでの研究で明らかにした、SCV形成との関連が認められた遺伝子や生化学的性状などを基に、SCVの新規検出法を検討する。上記のデータを統合することで、SCVsの適切な制御法を見出し、SCVに対する新たな治療戦略の確立を目指す。
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Causes of Carryover |
当該年度までの実験結果から、研究成果を補完するための追加実験の必要性が生じた。また研究テーマに関連した学会へ参加するための旅費として使用予定であったが、オンライン上での開催となり未使用額が生じた。次年度に補完実験及び関連学会への参加を行い、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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