2020 Fiscal Year Research-status Report
軸索に着目した筋萎縮性側索硬化症の運動ニューロン選択的変性に関わる新規因子の探索
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20K16593
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
光澤 志緒 東北大学, 医学系研究科, 大学院非常勤講師 (60869618)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 筋萎縮性側索硬化症 / TARDBP / TDP-43 / iPS細胞 / 運動ニューロン脆弱性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の運動ニューロン選択的変性の原因解明を目標に、その解剖学的特徴である長大な軸索に着目し、運動ニューロン選択的変性について解析する。 ALSの原因遺伝子のひとつであるTARDBPはTDP-43をコードし、TDP-43はALS患者の運動ニューロンの細胞体に異常凝集する重要な病態関連分子である。これまで、TARDBP変異ALS患者の人工多能性幹細胞(iPS細胞)を樹立し、分化誘導した運動ニューロンの突起伸長が抑制されることを確認した。さらに、RNAシークエンスにより変異運動ニューロン軸索で発現が低下している新規病態関連因子Xを見出し、その発現抑制で健常者運動ニューロンの突起伸長抑制が再現された。 今回、健常者から樹立したiPS細胞へ、ゲノム編集でTARDBP変異を導入し、同じヒト由来で変異の有無のみ異なる1セットのアイソジェニックラインを用いたRNAシークエンスでも、Xが変異運動ニューロン軸索で低下していた。 次に、動物モデルとして、ゼブラフィッシュを用いて、モルフォリノによるXの発現抑制実験を行うと、細胞モデルと同様に脊髄軸索長が低下し、さらに運動機能も低下した。TARDBPと同様にALSの原因遺伝子の1つであるSOD1の変異をもつALSモデルラットの腰髄において、運動ニューロンの存在する脊髄前角細胞のXの発現が減少していることも確認した。以上から、生体においても運動ニューロン内のXが重要な働きをしており、ALSではXの発現量が低下することで、運動ニューロンの突起長や生体の運動機能が低下すると考えられた。 Xは、ALSで発症後長期まで保たれる動眼神経や自律神経において発現が高いことから、変異運動ニューロンの脆弱性に関わる可能性が考えられた。Xの下流に位置する標的因子の同定を行い、運動ニューロン脆弱性に関わる機序を見出すことが今後の課題と考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
iPS細胞由来運動ニューロンのRNAシークエンスから変異運動ニューロン軸索分画で発現が低下している新規病態関連因子Xを見出し、Xの発現抑制で健常者運動ニューロン突起伸長が抑制された。本研究では、以下の項目を確認した。 1)ヒトiPS細胞アイソジェニックラインを用いた新規病態関連因子Xの再現性の確認:本研究では、健常者から樹立したiPS細胞へ、ゲノム編集でTARDBP変異を導入し、同じヒト由来で変異の有無のみ異なる1セットのアイソジェニックラインを用いてRNA-シークエンスで、Xが変異運動ニューロン軸索で低下することを確認した。 2)in vivoでの新規病態関連因子Xの発現抑制実験:胚や幼生が無色透明で生体の軸索観察が容易なゼブラフィッシュを用い、Xに対するモルフォリノの投与による発現抑制実験を行った。Hb9プロモーター下に改変GFPであるVenusを発現するレンチウイルスベクターを用いて、蛍光標識されたゼブラフィッシュ脊髄運動ニューロンを観察すると、軸索長が短縮する形態変化を観察した。さらに、尾への刺激に対する反応性を評価すると、Xの発現抑制でゼブラフィッシュの反応性が著明に低下した。以上から、生体においてもXが運動ニューロンの軸索の形態や運動機能に関連することが確認できた。さらに、TARDBPと同様にALSの原因遺伝子の1つであるSOD1の変異をもつhuman SOD1 transgenic(Tg)ラット(ALSモデルラット)の腰髄の免疫細胞化学を行うと、正常のラットでは脊髄運動ニューロンに存在するXの発現が、ALSモデルラットでは減少していることも確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で、ヒトiPS由来運動ニューロン軸索分画のRNAシークエンスから見出した新規病態関連候補因子Xが運動ニューロン突起長短縮の表現型や動物モデルにおける運動機能低下に関わることが分かった。さらに、ALS進行期にも比較的保たれる動眼神経や自律神経などの非運動ニューロンでXが高発現することから、Xの発現減少がALSの運動ニューロン脆弱性のメカニズムの一端を説明しうると考える。この成果はオープンアクセス誌に掲載予定である。 今後は、Xがどのように運動ニューロン変性を来すかの解明を目標に、Xの下流の標的因子の同定を行い、下流標的因子への治療として介入可能性を模索する。具体的には、転写因子であるXの発現抑制細胞を用いたマイクロアレイや、患者iPS細胞をALS進行期にも比較的保たれる自律神経などへ分化誘導し、RNAシークエンスにより運動ニューロンと発現パターンを比較検討する。 Xと運動ニューロン脆弱性をつなぐXの下流標的因子が軸索でどのように働いているかを確認するために、puromycinで新規翻訳蛋白を標識し、局所翻訳の解析も行う。
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Causes of Carryover |
申請時の計画として、次年度以降も本研究を継続するため。 使用計画として、①Xの過剰発現実験、②自律神経や感覚神経への運動ニューロン以外の神経細胞への分化誘導、③運動ニューロンと運動ニューロン以外の神経細胞の軸索におけるRNA発現比較、④新規病態関連因子Xの下流候補の蛋白発現量解析を行う。 上記実験計画遂行のために、iPS細胞を含めた細胞の維持、分化誘導に必要な培地、小分子などを購入する。またRNAシークエンスやそのデータ解析、蛋白発現量解析に必要な試薬を購入する。さらに、昨年度の実績を論文や学会発表として公表するための費用とする。
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[Presentation] Axonal pathology in amyotrophic lateral sclerosis with TARDBP mutations.2020
Author(s)
Shio Mitsuzawa, Naoki Suzuki, Tetsuya Akiyama, Mitsuru Ishikawa, Takefumi Sone, Jiro Kawada, Ryo Funayama, Hiroaki Mitsuhashi, Ayumi Nishiyama, Kensuke Ikeda, Tomomi Shijo, Naoko Nakamura, Hiroya Ono, Risako Ono, Rumiko Izumi, Tadashi Nakagawa, Keiko Nakayama, Hitoshi Warita, Hideyuki Okano, and Masashi Aoki
Organizer
第61回日本神経学会学術大会(61st Annual Meeting of the Japanese Society of Neurology)