2022 Fiscal Year Annual Research Report
ヒストン・メチル化障害による恐怖記憶の消去障害の機序解明とPTSD治療法の開発
Project/Area Number |
20K16649
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
片岡 努 広島大学, 医系科学研究科(医), 専門研究員 (10868805)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | PTSD / 動物モデル / エピジェネティクス / 新規治療薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
PTSDモデルであるsingle prolonged stress(SPS)負荷ラットにおける恐怖記憶の消去障害に関する海馬の脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor: BDNF)低下の機序を解明する目的で、まずBDNFのmRNA発現を測定した。SPS負荷1週間後の恐怖条件付け直前の時点ではBDNF mRNAの発現に変化を認めず、また恐怖条件付け後24時間時点でもBDNF mRNA発現に変化を認めなかった。しかし、恐怖記憶消去訓練後2時間の時点でのBDNF mRNA発現はSPS負荷ラットで有意に減少しており、SPS負荷ラットでは消去訓練後に誘導されるBDNFmRNA発現が抑制されている可能性が示唆された。また、SPS負荷ラットのBDNF発現抑制の機序としてヒストンメチル化を想定し、ヒストンH3の9番目のリシン(H3K9)のジメチル化について、全ヒストンH3およびBDNFプロモーターⅠとⅣにおけるジメチル化を測定した。全ヒストンH3の解析では、どの時点でもH3K9ジメチル化に有意な変化は認めなかったが、各プロモーター部位の解析では恐怖記憶消去訓練後2時間の時点でのBDNFプロモーターⅣのジメチル化がSPSラットで亢進していた。さらに、恐怖記憶消去訓練の16時間前にヒストンメチル化酵素の阻害薬であるBIX01294を投与することによって、SPSラットの消去訓練後のBDNF発現低下の回復や恐怖記憶の消去障害の改善が認められた。以上より、SPSラットの恐怖記憶の消去障害の機序として海馬におけるH3K9メチル化変化を介したBDNF遺伝子の発現調節の関与が示唆された。
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