2021 Fiscal Year Research-status Report
自己臭恐怖の病態と神経基盤の解明:精神症状と消化器症状の相互作用に焦点を当てて
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20K16682
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
河西 ひとみ 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 行動医学研究部, 科研費研究員 (90807067)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 自己臭恐怖 / 過敏性腸症候群 / 脳腸相関 / 嗅覚 / 自殺念慮 / 生物学的基盤 / 心身相関 / 病態解明 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、わが国で有病率が高い自己臭恐怖 (Olfactory reference syndrome:ORS、嗅覚関連づけ症候群)について、消化器症状との合併という心身相関の観点から病態解明を目指して実施した。ORSは従来、特に日本など東アジアに有病率が高いと言われてきたが、近年、国際的に罹患者が多いこと、国内では消化器症状に関連する臭いを主訴とする自己臭恐怖患者には実際に過敏性腸症候群(IBS)が50%以上の割合で併存していたことが報告されてきた(小林, 2015)。
ORSは、DSM-5では強迫症および関連症に分類されているが、歴史的には不安症や妄想性障害、Schizotypyとの関連も指摘され、病識レベルに幅があり、妄想的とはいえない場合もある。殊に、放屁や便通異常といった身体症状が存在する場合は、了解可能な不安が何らかのメカニズムによって増幅されている可能性もある。しかしながら、現段階では世界的に研究が乏しい。
昨年度は自己臭恐怖と消化器症状の両方を有する研究参加者を対象とした論文を投稿したが(Kawanishi et al, JMIR Preprints)自己臭恐怖症状の重症度と、IBSの重症度の平均得点は、いずれも中等症を示し、両者には相関があった (r = 0.37, P < 0.001)。中等症のうつ症状の合併が多く、さらに項目9で測定する自殺念慮では68.5%が「1」以上のスコアを示し、その中でも自殺のハイリスクとされる「2」は14.8%、「3」は10.8%であった。自殺念慮は、ORSの患者において注意すべき重要な点と考えられ、さらなる研究が必要である。2021年度は新型コロナウイルスの感染拡大等により新たな研究参加者を募ることが困難であった。そこで、重大なリスクとなりうる自殺念慮に焦点をあて、研究を継続した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度も新型コロナウイルスの感染拡大が続いたこと、当初実施予定であったMRIの機種変更等により研究環境に変化が生じたことなどにより、2021年度の研究参加者のリクルートを行わなかった。 ただし、昨年度から継続して所属する機関に併設する病院にて心療内科医師の診察によるの当該研究対象者(ORSとIBSが併存する)の既存患者の診療継続と、臨床心理士・公認心理師である研究代表者の心理面接を併行して治療として継続している状況である。
当初の研究計画を一部変更して行った研究においては、下記の進展があった。2021年度に実施した調査研究の結果から、ORSとIBSが併存する人々において自殺念慮が高いことが判明したため、自殺念慮を含む自殺行動に焦点をあて、研究を継続した。具体的には、対象疾患は異なるが、研究代表者が参加している心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder: PTSD)の研究において、PTSD患者における自殺念慮について検討を行った。当初の研究対象であったORSとIBSが併存する患者においても、PTSD患者においても、いずれもBDI-Ⅱの項目9で自殺念慮を測定している。両対象には病態に相違があることが考えられるが、いずれもストレス関連疾患という側面が共通し、さらに自殺行動のハイリスク群の人々が多く含まれているという観点から、疾患分類を超えて有益な知見を求めて、心理的-生物学的な観点から自殺念慮について検討を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
ストレス関連疾患における心身相関のメカニズムについて、疾患横断的に重要な課題である自殺行動に焦点をあて研究を継続する。本研究の成果を出すことによって、生きることに困難を抱えている人々の背景要因を心理的・生物学的な観点から、より包括な解明を試みることによって、有効な治療や支援に繋げるための知見の創出を目指したい。 具体的には、今後はこれまでの成果を論文にまとめ、社会への研究成果の還元を目標とする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大の継続や研究環境の変化等によって、当初設定した研究プロセスを進めることができなかった。引き続き本研究を継続するため、論文投稿・掲載費、研究参加者への謝金、研究に関連する文献購入費等に費用を使用する予定である。
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[Presentation] PTSD女性患者における自殺リスク:幼少期被虐待体験、炎症マーカー、炎症系遺伝子多型との関連2021
Author(s)
河西ひとみ, 堀弘明, 吉田冬子, 伊藤真利子, 林明明, 丹羽まどか, 井野敬子, 今井理紗, 関口敦, 加茂登志子, 功刀浩, 金吉晴
Organizer
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 令和 3 年度 研究報告会(第 33 回), 東京, 2022.3.28.(口頭発表)