2020 Fiscal Year Research-status Report
ナノ粒子の形態変化を利用した新規薬物放出制御法の開発と核医学診断・治療への応用
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20K16743
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Research Institution | Kobe Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
宗兼 将之 神戸薬科大学, 薬学部, 特任助教 (80804806)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 核医学診断・治療 / リポソーム / 薬物放出制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「内水層に水溶性薬物を封入できるリポソーム」から「内水層を持たないナノディスク」へ粒子形態変化させることで薬物を放出させるという新たな機構の放出制御法を開発するとともに、本放出制御法を核医学診断・核医学治療に応用することで、がんの精度の高い診断および治療効果が高く副作用の少ない治療を達成することを目的とする。リポソームはがん組織へ良好な集積を示すことが知られているため、リポソームに尿排泄性の放射性標識体を内封することで、がん組織へ選択的に送達する。一方で、リポソームは血中滞留性が高く、疾患部位と正常部位とのコントラストが悪いという欠点を有している。そこで、リポソームを形態変化させる物質を後から静脈内投与し、生体内で内水層を持たないナノディスクに変換することで、内封していた尿排泄性の放射性標識体を放出させる。血中で放出された放射性標識体は、血中から速やかに消失し尿排泄される。これにより、がん組織へは高集積で、正常組織(血中等)には低集積の新たな診断・治療法を構築する。 2020年度は、薬物放出に影響を及ぼす因子として、リポソームを構成するリン脂質の種類の影響評価と、薬物放出を惹起する両親媒性化合物の濃度の検討を行った。また、生体組織内での反応性を確認するため、血清中での薬物放出評価を行った。その結果、リン脂質の種類により放出能が異なり、両親媒性化合物の濃度依存的に薬物放出が促進されることが明らかとなった。薬物放出能が高いと考えられたリポソーム及び両親媒性化合物濃度を用いた血清中での放出性評価では、放出量が著しく減少していた。そこで現在、リポソームと両親媒性化合物との反応を特異的に起こすために、生体直行型反応の利用を検討している。生体直行型反応の利用により、血清中での特異的な反応及び薬物放出が確認できれば、担がんマウスを用いた検討を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、粒子形態変化惹起能を有する両親媒性化合物とリポソームとの反応により、血中で滞留しているリポソームから尿排泄性の放射性標識体を放出させることで、リポソームの高いがん集積性と血中からの速やかなクリアランスの2つを同時に達成できる核医学診断薬の開発を行う。また、治療用放射性標識体を内封させることで、核医学治療も可能なリポソーム製剤を開発する。 2020年度は、薬物放出能が高く安全性の高い両親媒性化合物の選定を行う予定としていたが、両親媒性化合物であるスチレンマレイン酸共重合体(SMA)を用いた検討で、血清中での反応性が悪く、放射性標識体の十分な放出が達成できなかった。しかしながら、リポソーム組成やSMA濃度により薬物放出能を増大できること等、今後の研究推進に重要な基礎的知見を得た。また現在、血清中でリポソームとSMAを反応させるために、夾雑物存在下でも特異的な反応が進行する生体直交型反応に着目し、生体直行型反応を起こすための官能基の導入を行っている。 以上のように、当初予定していた薬物放出能が高く安全性の高い両親媒性化合物の選定までは行えていないが、薬物放出量増大のための基礎的知見を得られていること等から、研究はやや遅れていると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、リポソームの組成変更により薬物放出率を増大できること等を見出したが、血清中ではリポソームと粒子形態変化惹起物質SMAの反応性が悪く、放出率が著しく減少することが明らかとなった。そこで現在、夾雑物存在下でも特異的な反応が進行する生体直交型反応に着目し、生体直行型反応を起こすための官能基の導入を行っている。2021年度も継続して行い、リポソームと粒子形態変化惹起物質SMAが血清中でも特異的に反応し、薬物を放出する条件を探索する。血清中で特異的に反応し、速やかに薬物を放出できる条件を見出すことが出来たら、化合物の安全性を評価するために細胞毒性試験を行う。十分な薬物放出性と安全性が確認できた化合物・濃度で、担がんマウスを用いた実証実験を行う。まず、リポソームのがんへの集積を経時的に評価し、SMAの投与タイミングを決定する。その後、SMAを投与し、血液からの速やかなクリアランスが見られるかを検証する。血液からの速やかなクリアランス、及びがんへの高い集積が確認された場合は、リポソームに治療用放射性核種を封入して治療実験を行う。治療実験では、治療効果と副作用を評価し、副作用が少なく治療効果の高い戦略となり得るかを検証する。
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Causes of Carryover |
2020年度は、薬物放出能が高く安全性の高い両親媒性化合物の選定を行う予定であったが、血清中で十分な薬物放出性を示す化合物を合成できておらず、当初予定していた化合物の細胞傷害性評価を行えていない。当初は、細胞傷害性評価にかかる費用を計上していたため、次年度使用が生じた。
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