2020 Fiscal Year Research-status Report
放射線誘発バイスタンダー効果による放射線抵抗性獲得機序の解明
Project/Area Number |
20K16744
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
小林 亜利紗 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学領域, 研究員(任常) (30773931)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 放射線誘発バイスタンダー効果 / 放射線抵抗性 / 線質依存性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は放射線がん治療の高度化のため、照射細胞の近傍にいた非照射バイスタンダー細胞の放射線抵抗性獲得における線質依存性および機序を明らかにすることを目的とした。そのために重粒子線(炭素イオン、鉄イオン)および硬エックス線をヒト肺がんA549細胞に照射し、照射細胞が同一生存率を示す条件間におけるバイスタンダー細胞の応答をCyclooxygenase-2(COX-2)の発現を指標に比較評価した。その結果、エックス線と炭素イオン照射条件のバイスタンダー細胞では非照射コントロール条件と比較して有意にCOX-2発現が増加する一方、鉄イオン照射条件においては非照射コントロール条件との差は見られなかった。次に、バイスタンダー細胞におけるCOX-2発現経路を明らかにすることを試みた。以前の研究で、エックス線照射により生成されるOHラジカルをOHラジカル捕獲剤(チオ尿素)の添加によって消去することで重粒子線と同程度まで直接作用の比を高めた場合、バイスタンダー細胞のCOX-2発現にNF-κBが関与する可能性を見出した。このことから重粒子線バイスタンダー細胞においてはNF-κBが活性化していると考え、NF-κBの転写活性によって発光を示すA549-NF-κB-ルシフェラーゼ細胞を作成し、異なる種類の放射線照射に伴うバイスタンダー細胞のNF-κB活性をルシフェラーゼ発光強度から測定した。その結果、炭素イオン照射バイスタンダー細胞では有意なNF-κB活性が確認された。一方エックス線および鉄イオン照射条件では有意なNF-κB活性は検出されなかった。COX-2発現はがん細胞の放射線抵抗性に関与することが知られ、本研究結果はバイスタンダー応答によるCOX-2発現とその経路に線質依存性が存在し、鉄イオンによる照射はバイスタンダー細胞の放射線抵抗性獲得を抑制する可能性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度実験計画として提案した照射条件の①-③について実施することができた。 ①:細胞に重粒子線(炭素イオン、鉄イオン)、エックス線を照射し、照射細胞において同一の生存率を示す線量に対するバイスタンダー応答を明らかにするため、それぞれの放射線照射に対する細胞生存率からLQモデルを用い生存率曲線を求めた、その結果D10におけるRBE値は硬エックス線、炭素イオン(LET 13 keV/um, 70 keV/um)、鉄イオン(LET 185 keV/um)の順に4.53、4.00、1.61、1.31であった。②:①で求めた生存率曲線を元に、照射細胞が同一生存率を示す線量で重粒子線、エックス線照射によるバイスタンダー応答を測定、比較したところ、本研究でバイスタンダー応答因子として着目したCOX-2の発現がエックス線と炭素イオン照射条件のバイスタンダー細胞では非照射コントロール条件と比較して有意に増加する一方、鉄イオン照射と非照射条件では両者に差は見られなかった。③:バイスタンダー細胞の放射線抵抗性獲得における機序を明らかにするため、COX-2転写因子の一つであるNF-κBの活性によって発光を示すA549-NF-κB-ルシフェラーゼ細胞を作成し、異なる種類の放射線照射に伴うバイスタンダー細胞のルシフェラーゼ発光強度を測定した。その結果、炭素イオン照射バイスタンダー細胞では有意なNF-κB活性が確認されたが、エックス線および鉄イオン照射条件では検出されなかった。つまり、バイスタンダー応答およびその経路に線質依存性が存在することが明らかになった。また、研究成果は2020年の日本放射線影響学会学術大会において報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度までの研究により、バイスタンダー細胞におけるCOX-2発現に線質依存性が存在することが明らかになった。具体的には、硬エックス線、炭素イオン照射バイスタンダー細胞ではCOX-2の発現が増加する一方、鉄イオン照射バイスタンダー細胞ではCOX-2の発現は見られなかった。COX-2はがん細胞の放射線抵抗性獲得に関与することから、バイスタンダー細胞におけるCOX-2発現が放射線抵抗性を調節すると想定し、今後バイスタンダー細胞に対して放射線照射(炭素イオン、鉄イオン、硬エックス線)を行い、その生存率、微小核形成率およびアポトーシス頻度から、バイスタンダー細胞の放射線抵抗性獲得における線質依存性を調べていく。さらに、バイスタンダー応答による放射線抵抗性獲得にCOX-2が関与していることを明らかにするため、COX-2を抑制した条件において同様の照射実験を行い、COX-2の活性によって放射線抵抗性獲得に変化が見られるか確認する。
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Research Products
(6 results)