2023 Fiscal Year Annual Research Report
特異な臨床像を呈した転写因子PAX8変異G56Sの分子、組織、個体レベル機能解析
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20K16936
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
阿部 清美 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 共同研究員 (30594973)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 先天性甲状腺機能低下症 / Pax8変異 / 遺伝子改変マウス / 甲状腺形成異常 / 腺腫様甲状腺腫 / Nkx2.1変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
甲状腺の発生と濾胞形成・維持に重要な役割を果たす特異的転写因子Paired box 8 (PAX8)の変異により、年代別によって異なる甲状腺表現型(小児はCH、成人は腺腫様甲状腺腫)を呈した4世代家系を経験した。この家系の表現型を再現し、発症メカニズムを解明するため、PAX8 G56S変異マウスを作製した。
次の通りに計画・実施した。①ゲノム編集技術(CRISPR-Cas9)を用いPax8 G56S遺伝子導入マウスを作出し、ホモ接合型Pax8(G56S)バリアントマウス(以下G56Sマウス)と同腹の野生型マウス(WT)を比較した。②G56Sマウスの成長(体重)、甲状腺機能(TSH, 総T4)、甲状腺組織像を小児期(2-3週齢)と成獣期(3~5か月齢)で評価した。③G56Sマウスの甲状腺組織の遺伝子発現やたんぱく質発現を比較し、濾胞形成不全や腺腫発生の機序の探索を試みた。
次の結果が得られた。G56Sマウスは既報および自作のPax8ノックアウト(甲状腺無形成、離乳後に致死)と比較し、明らかに症状が軽く長期飼育可能であった。生後2週齢のG56SマウスではWTに比し、体重が軽度低下し、甲状腺ホルモン値も顕著に低下していた。甲状腺組織は、濾胞形成不全を呈していた。一方、3か月齢のG56Sマウスでは体重は野生型と同等であったものの、甲状腺ホルモン値は低値だった。また組織像では、ヒトの腺腫様甲状腺腫に類似した特徴的な所見を認めた。尚、ヘテロ接合体マウスでは野生型と同等の所見であった。さらにG56Sマウスの5か月齢の甲状腺組織をRNA-seqで解析したところ、遺伝子発現プロファイルがWTとは大きく異なっていた。 このように、G56Sマウスでは、時間依存的に変化する甲状腺表現型が再現された。今後、本マウスモデルを用いて、濾胞形成不全や腺腫発生の詳細な分子機構の解明を進めていく予定である。
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