2020 Fiscal Year Research-status Report
芳香族炭化水素受容体からみた自己免疫性膵炎の発症メカニズムの解明
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20K16975
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
鎌田 研 近畿大学, 医学部, 講師 (70548495)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 自己免疫性膵炎 |
Outline of Annual Research Achievements |
自己免疫性膵炎が全身性のIgG4関連疾患の膵臓特異的表現型であることが明らかになり、本疾患の患者数は増加している。自己免疫性膵炎の発症メカニズムは解明されていないが、申請者らは自己免疫性膵炎の発症に腸内細菌叢の変化が関与することを明らかにした。Aryl hydrocarbon receptor (AhR)は腸内細菌由来代謝産物により活性化される転写因子であり、免疫システムの恒常性の維持に重要な役割を果たしている。自己免疫性膵炎を誘導する腸内細菌叢の変化に伴いその代謝産物のProfileも変動することが予測される。そこで、本研究では「腸内細菌叢の変化に伴う細菌由来代謝産物のProfile変化」が自己免疫性膵炎の発症に及ぼす効果をAhRの活性化という視点から明らかにすることを目的とし、以下の事実を見出した。 1)AhRリガンドであるる2, 3, 7, 8-Tetrachlorodibenzodioxin (TCDD)、Indole-3-pyruvic acid (IPA)あるいは青黛の給餌により、自己免疫性膵炎の発症は抑制された。2)AhRリガンドの投与により、IL-22の発現が膵臓内で著明に増加した。3)免疫染色により、膵ラ氏島α細胞がIL-22の産生細胞であることが示唆された。4)Bromodeoxyuridineの取り込みを指標とした検討により、IL-22が膵腺房細胞の増殖・修復に関係していることが示唆された。5)IL-22中和抗体の投与がAhRの活性化による自己免疫性膵炎の抑制を阻害した。6)自己免疫性膵炎患者における血清IL-22は、慢性膵炎患者とのそれと比較し有意に低値であること、ステロイド治療後に著明な上昇がみられた。 以上の結果から、AhRの活性化によるIL-22産生が自己免疫性膵炎における膵腺房細胞の増殖・修復に関与していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究を行うにあたり必要な免疫染色・フローサイトメトリー・遺伝子発現解析等で用いる機器類は研究室に常備されている。申請者は核酸の取り扱いや動物実験に習熟している。このように、研究課題を遂行するための環境は整備されている。また、現在のところ仮説通りの研究結果が得られているという点が、進捗状況がおおむね順調に進展している理由として大きいと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
AhRによる自己免疫性膵炎の発症抑制メカニズムの解明を目指し、本疾患の新規治療法・予防法を提案する。具体的には以下の手法を用いて研究を行う予定である。 a) 膵臓において、AhRの下流で活性化される免疫反応を網羅的に解明する。TCDD・IPA・青黛によるAhRの活性化が誘導する免疫反応をRNAシークエンス法により、網羅的に解析する。この手法により、AhRを活性化された自己免疫性膵炎モデルマウスの膵組織に発現誘導される免疫抑制分子を抽出する。b) 自己免疫性膵炎患者におけるAhR経路の活性化を明らかにする。AhR nuclear translocator (ARNT、AhR関連シグナル伝達分子)・AhR・IL-22・a)で抽出した免疫抑制分子の患者膵検体における発現を定量的PCR法にて評価する。膵癌組織におけるこれらの分子の発現と比較検討する。c) 自己免疫性膵炎モデルマウスにおけるメタボローム解析を行う。自己免疫性膵炎を発症したマウスの便検体を用いたメタボローム解析を行い、膵炎の発症に伴い腸管で増減する細菌由来代謝産物の変化を解析する。特に、AhRリガンドとして作用するトリプトファン代謝産物の変化に注目し、解析を行う。d) 自己免疫性膵炎患者のメタボローム解析を行う。申請者らは自己免疫性膵炎患者では、活動期と寛解期において腸内細菌叢に変化が生じることを見出しているが、細菌由来代謝産物の変化については検討していない。ステロイド投与前後における自己免疫性膵炎患者の便検体を採取し、メタボローム解析を実施する。e) 喫煙習慣がAhRの活性化を介して本疾患の発症に関わる可能性が示唆される。喫煙習慣と血清中の自己免疫性膵炎関連免疫分子の発現を検討し、喫煙習慣がAhRの活性化を介して、自己免疫性膵炎の発症を制御する可能性を明らかにする。
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