2020 Fiscal Year Research-status Report
iPS細胞由来胃オルガノイドによる粘膜筋板形成及び破綻のメカニズム
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20K17048
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
上原 慶一郎 神戸大学, 医学部附属病院, 助教 (70710557)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | iPS細胞 / 胃分化誘導 / 粘膜筋板 |
Outline of Annual Research Achievements |
胃粘膜筋板の形成に関する研究はヒト以外の実験動物では研究がなされているが、ヒトに関しては報告がない。ヒトでの組織発生の研究する方法として、ヒトiPS細胞での分化誘導を利用し、研究することができる。今までの研究でヒトiPS細胞から胃への分化誘導に関して胃の表層を覆う上皮のみ分化誘導されていることが報告されているが、胃壁を形成する上皮以外の構造は認められなかった。本研究では、既報よりも長期培養することで上皮以下の粘膜筋板を伴った胃オルガノイドをヒトiPS細胞から誘導することができた。その胃オルガノイドは、免疫染色による組織構造解析や網羅的な遺伝子発現解析でも胃と遜色がなかった。また、胃オルガノイドの粘膜筋板は上皮が誘導された後に分化してくることが判明した。 まず、この粘膜筋板を伴った胃オルガノイドを用いて粘膜筋板形成に関わる上皮由来のシグナルを探索した。ヘッジホッグシグナルとTGFβシグナルを阻害すると粘膜筋板の形成が抑制された。また、胃オルガノイドが培養皿底部に接着することで周囲に平滑筋が増生しており、粘膜筋板形成が促進した。以上のことから胃粘膜筋板形成にヘッジホッグシグナル、TGFβシグナル、基質の硬度が関わっていることが判明した。 粘膜切除後の胃上皮では、免疫染色にてTGFβの発現が亢進しており、粘膜筋板の再生に関わっていることが示唆された。 粘膜筋板形成に関わるこれらの3つの因子が判明したことによって胃潰瘍だけでなく癌の浸潤と粘膜筋板の関連を調査することができる。今後の癌の予後予測や粘膜下層内への癌浸潤の阻止、転移を抑制することにつながる可能性があるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒトiPS細胞由来の胃オルガノイドを既報より3週間長い8週間培養した。免疫組織染色にて、上皮には胃上皮マーカー(TFF-1、MUC5AC)が陽性で、胃へ分化していた。上皮下にαSMA陽性紡錘形細胞の束状構造が認められ、粘膜筋板を伴っているものと考えられた。経時的な変化を調べるために免疫組織染色やRNAを抽出した。免疫組織、qRT-PCRにて上皮の分化の後に粘膜筋板が形成していることが判明した。RNA-seqによる網羅的な遺伝子発現を主成分分析にて解析すると8週の胃オルガノイドはほぼ胃と同様の遺伝子発現をしていた。 胃オルガノイドの粘膜筋板形成する因子を探索するため、ヘッジホッグシグナル阻害薬であるシクロパミンやTGFβシグナル阻害薬であるSB431542を粘膜筋板が形成される前から投与し、粘膜筋板が形成されるかを確認した。シクロパミン、SB431542いずれも投与すると免疫組織染色で上皮下のSMA陽性紡錘形細胞の束状構造が減少し、qRT-PCRでもSMA発現が有意に減少していた。以上から、ヘジホッグシグナルとTGFβシグナルが胃オルガノイドの粘膜筋板を誘導する因子と考えられた。また、胃オルガノイド培養中に培養皿の底部に接着すると紡錘形細胞が増殖する像がみられ、免疫染色にてSMA陽性であった。qRT-PCRでもSMA発現が増加していた。上皮下と考えられる部位に平滑筋の増生がみられ、基質の硬さも粘膜筋板形成の因子と考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
胃オルガノイドにヘッジホッグ阻害薬やTGFβ阻害薬で粘膜筋板の形成が抑制されたが、逆にヘッジホッグシグナルやTGFβシグナルを促進することで粘膜筋板形成がより促進されるかを免疫組織染色やqRT-PCRにて調べる。 神戸大学附属病院で切除された胃癌の臨床病理検体で、SHH及びTGFβ1の免疫染色やin situ hybridizationを行い、癌での発現を評価する。そして、癌のシグナル発現と浸潤、予後や転移との相関を調べる。 胃癌細胞株でSHHとTGFβ1のノックアウトもしくは、siRNAでノックダウンする。そして、間葉系幹細胞と混合培養し、免疫染色やqRT-PCRにて平滑筋マーカーであるSMAの発現評価を行う。
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Causes of Carryover |
世界的な新型コロナウィルスの流行により、参加を検討していた学会の多くがキャンセルもしくはweb開催となり、旅費がほぼ必要なくなってしまった。今後、次世代シーケンサーを用いて網羅的な解析を追加で行っていくことを計画しており、その外注費用や解析用PCの購入を予定している。ヘッジホッグシグナルとTGFβシグナルの促進剤の購入も予定している。臨床検体での免疫染色も計画しており、追加で抗体や対照群の組織スライドを購入する。胃癌細胞株と間葉系幹細胞との混合培養の際に、siRNAにてSHHとTGFβ1のシグナルのノックダウンを行うことを考えている。
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Research Products
(3 results)