2020 Fiscal Year Research-status Report
炎症性腸疾患の粘膜治癒過程における浸透圧変化の影響
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20K17061
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
清島 亮 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (10573412)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 炎症性腸疾患 / 粘膜治癒 / 浸透圧変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年炎症性腸疾患(IBD)の治療効果判定として、従来の臨床症状の評価から粘膜治癒の病理学的評価に変わりつつある。本研究の目的は、浸透圧調節因子であり炎症反応の増悪とも深く関与している転写因子NFAT5に注目し、同分子が病理学的な粘膜治癒の過程でどう影響を与えるかを検討することである。 炎症反応の惹起にサイトカインが必須であることは既知の事実であるが、IBDの活動期には腸管粘膜におけるIL-1、IL-6、IL-18、TNF-αといったサイトカイン分泌が上昇する。またこれらの分泌量は粘膜の炎症やリンパ球浸潤の程度と良く相関することもわかっている。一方、IBDに関連するIL-1、IL-6、IL-18などのサイトカインがNFAT5によって発現・分泌制御されていることが報告されている。また、NFAT5は細胞が高浸透圧に晒されるとその発現・作用が上昇するが、潰瘍性大腸炎患者の便汁中の浸透圧は、健常者に比べて有意に高値を示すことも報告されており、IBD患者の粘膜の微小環境において、細胞が高浸透圧に晒され、NFAT5発現が亢進している可能性が考えられる。そこで本研究では、「便汁の高浸透圧がNFAT5を増加させ、これが粘膜の炎症を惹起している」という仮説のもと始められた。 まずマウスを用いてIBDモデルの作成を試みた。DSS、TNBSを用いたモデルを試行し、ともに研究遂行に十分な炎症所見を得ることができた。次に、腎臓において明らかにされている浸透圧調節関連遺伝子の発現を検討したところ、NFAT5をはじめとしていくつかの遺伝子発現の著明な上昇が認められた。またヒト検体を用いて免疫染色による同様の検討を行ったところ、炎症粘膜にNFAT5発現上昇を認めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マウスモデルを用いた検討では、概ね仮説通りの所見を得た。浸透圧関連遺伝子が炎症粘膜中のどの細胞に多く発現するかなどに関して、現在詳細を検討中である。また、粘膜治癒の過程で浸透圧関連遺伝子の発現挙動がどう変化するかも検討する予定である。 ヒトサンプルを用いて実際の浸透圧を測定することも検討事項の一つであった。何が原因で腸管粘膜の浸透圧が上昇するのか、その治療ターゲットを同定することが目的である。活動期と粘膜治癒時のヒト生検検体それぞれ10症例程度ずつ採取し、組織中の生体内の主要な浸透圧物質であるナトリウム、カリウム、尿素などの浸透圧物質濃度を網羅的に測定することで、各浸透圧物質濃度と粘膜治癒、浸透圧との相関関係を検討した。しかしながら、実際に行ってみたものの測定値にばらつきが多く解析には至らなかった。検体採取の方法や測定方法を工夫して改善を図る予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、各種細胞特異的NFAT5欠損マウスの作成を試みている。NFAT5をはじめとした浸透圧関連遺伝子の詳細な発現状況が明らかになった後に、Lysosome M (LysM)-Creマウス、CD4-Creマウス、villin-Creマウスなどと掛け合わせて選択的ノックアウトマウスを作成し、粘膜治癒との関連を検討していく。具体的にはこれらのマウスに高張液や低張液を経口摂取させることにより腸管内の浸透圧変化が炎症に与える影響を検討するとともに、NFAT5選択的ノックアウトによってそれが抑制されるかを評価し、浸透圧変化の重要性と治療ターゲットとしての有用性を検討する。
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