2020 Fiscal Year Research-status Report
免疫抑制作用薬がヒト汗腺に与える影響の解析:なぜステロイドは無汗症に有効なのか?
Project/Area Number |
20K17360
|
Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
下田 由莉江 杏林大学, 医学部, 助教 (50774204)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 汗腺 / 細胞培養 / 器官培養 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、今後本研究計画で必要となる薬剤添加がヒト汗腺細胞に与える影響の評価に十分な器官培養を行うために、十分な細胞数を確保する細胞培養系の確立にまず重点をおいた。これまで、培養ヒト汗腺細胞を得るためにはヒト皮膚から実態顕微鏡下で汗腺を単離し、初代培養及を確立していた。本法では分離した汗腺を培養ディッシュに付着させ汗腺組織から広がりながら増殖する汗腺細胞を継代する。しかし、分離汗腺からの培養細胞の外向性増殖が得られる頻度は低く得られる細胞数が限られるという問題があった。各種培養液による培養条件の工夫に加え、ヒト線維芽細胞をフィーダー細胞とした培養法を新たに確立し、最大継代数10代までの継代が可能になった。初代培養確立の成功率もフィーダー法を用いた場合には高く、安定して5代までの継代が可能であった。また、汗腺マーカー遺伝子の発現プロファイルを用いた培養条件下での汗腺細胞の特性を評価する系を確立した。継代操作による発現の変化はマーカーにより大きく異なることが明らかとなった。具体的にはAQP5の発現などは低下しやすく、CEACAM5の発現は維持される傾向があった。本計画の遂行には安定した細胞供給を可能にする意味で本フィーダー法を活用することが望ましく、継代にて低下するマーカー発現を維持するべく汗腺の発生にかかわるWNTシグナル活性化因子を添加する、継代後、培地をより上皮系細胞の特性維持するものに変更するなど検討し、現在汗腺マーカー発現を検討中である。このような培養系の確立と並行して、今後の研究計画の遂行のため、ヒト検体が採取されるごとに汗腺分離を行い、培養ヒト汗腺細胞のストックを行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、初年度は、汗腺細胞の樹立とそれを用いた器官培養系の確立を主として遂行する予定であった。計画立案時には予期しえなかった、新型コロナウイルス感染症の急速な拡大による試料採取機会の減少と、計画立案時の予備実験結果をふまえ、今後の計画の円滑な遂行のためにはより効率よく、かつヒト汗腺の特性を維持しながらヒト汗腺細胞を安定して培養し、増数させる必要があることが明らかとなった。予備実験で検討していた培養系では可能な継代数も限られ、また、汗腺特異的なマーカー発現も限定的であった。そこで、まず限られたヒト皮膚検体から汗腺組織を顕微鏡下のマイクロダイセクション法で効率よく採取する手技の習熟に努めた。これまでヒト汗腺細胞の培養法としてはほとんど試みられることのなかったフィーダー細胞を用いた培養法の確立を試み、採取される細胞数としては十分期待できる細胞数を得ることが可能となった。また得られた細胞をもちいた汗腺マーカー遺伝子発現プロファイルの評価法、フローサイトメトリーを用いた汗腺マーカー(特にAQP5)の評価法をある程度確立し、今後の計画遂行の技術的基盤を確立することができた。また、in vitroでの特性維持回復の方法の一つとして、培養汗腺細胞を用いて、細胞凝集を行い、汗腺構造類似の立体構造体を作成し、遺伝子発現の回復がみられるかどうか技術的検証を行い、限定的ではあるが、汗腺マーカー遺伝子発現回復の可能性を示唆する所見を得た。ヒト器官培養系については分離皮膚を用いたAquaporine5(AQP5)、CEA,K18についてリアルタイムPCR解析を行い、器官培養標本における汗腺特異的マーカーの発現を評価可能であることを技術的に検証した結果、分離する汗腺組織の検体量を確保することで可能であることを示すことができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
培養系の確立、特性の評価法なども含めたヒト汗腺細胞の研究のためのツールはこれまで十分には確立されていないものであるため、初年度に行った正常ヒト汗腺組織からの安定した細胞培養法の確立は意味のあるものであると考えられる。しかし、細胞の収量自体は良好であるものの、マーカー遺伝子発現の評価に基づく限り、その生物学的特性は培養操作中に予想以上に損なわれていることがわかった。従って今後の研究計画の遂行にあたっては、器官培養法の確立やそれを用いた薬剤添加の影響の評価と並行して、汗腺細胞の特性をいかにin vitroで維持するかについての方法論を確立していくことが重要である。現在、予定している方法として、汗腺の発生に関与するシグナル因子の添加、上記の培養細胞を用いた3次元培養による立体構造の再現などを想定している。ヒト皮膚器官培養を用いた検討については本年度その方法論をある程度確立したため、新型コロナウイルス感染症の影響による検体の制限はある程度は免れないものの、今後、器官培養に副腎皮質ステロイドなどを投与することにより、dermcidinやアセチルコリンレセプターなどの汗腺機能を反映する分子や、MHC class I, MIF,α-MSH などのIP関連分子、加えてクローディンなど汗腺、汗管内物質の汗腺組織外への流出を防ぐ分子の発現が変化するか否かについて、主として分子生物学的手法と免疫組織化学的手法を用いて検討する。また、個々の活動汗管からの発汗量を定量的に測定するためのImpression mold法(IM法)や、ヨードデンプン法と、拡大画像解析を組み合わせた測定方法を用いて器官培養における発汗量の評価を試みる。この検討結果を、前述の細胞培養系おいて同様の検討を行った研究結果と比較検討することで発汗障害の病態とその治療法の有用性の評価を可能にする圧政系の確立を目指す。
|
Causes of Carryover |
研究計画初年度となる本年度は、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う皮膚良性腫瘍切除術の制限により、まず、主に今後の円滑な研究計画遂行の基盤となるヒト汗腺培養法の改良に注力した。消耗品として計上を予定していたもののうち、特に高額となる器官培養確立のための細胞外基質、組み換えタンパクなどの購入が予想を超えて少なく、購入費用に余剰が生じた。また感染症流行状況を考慮し、国際及び国内学会への参加を中止し、研究試料とデータの蓄積と解析を優先したため、学会参加費等の費用が抑えられた。 次年度以降は、研究計画立案時には想定していなかった、汗腺細胞の特性を維持しうるよう培養系をさらに改良するためにフィーダー細胞、発生関連分子シグナル活性化因子など低分子化合物、組み換えタンパクなどの購入が必要となる。また、汗腺に作用させる薬剤の影響を評価するための、遺伝子解析やフローサイトメトリーによる解析を行うため、各種抗体などを購入する予定である。研究成果については、本年度後半頃から、国内学会での発表、論文化を通して広く世界に発信するため、学会参加費や英文校正費等の使用が見込まれる。本年度の余剰はこれらの費用に充当する予定である。
|